篩骨 Os ethmoidale

J040.png

J0040 (篩骨:少し簡略化された後方からの図)

J041.png

J0041 (篩骨:上方からの図)

J042.png

J0042 (右の篩骨迷路:内側からの図)

J043.png

J0043 (右の篩骨迷路:外側からの図)

J044.png

J0044 (篩骨、垂直板:左方からの図)

解剖学的構造

篩骨は、頭蓋骨を構成する不対性の骨で、前頭蓋窩の中央部に位置し、前頭骨と蝶形骨の間に挟まれています。その形状は立方体に似ており、前頭骨の篩骨切痕(incisura ethmoidalis)に嵌合することで頭蓋底の重要な構成要素となっています (Standring, 2020; Moore et al., 2018)。篩骨は、鼻腔の上部、眼窩内側壁、前頭蓋窩底部の形成に関与し、頭蓋と顔面骨格の接合部として機能します (Netter, 2019)。

篩骨は以下の3つの主要部分から構成されています:

1. 篩板(Lamina cribrosa)

篩板は水平位に配置された薄い骨板で、前頭蓋窩の底部を形成し、鼻腔の天蓋となります。その表面には多数の小孔(篩孔、foramina cribrosa)が存在し、これらを通じて嗅神経(第I脳神経)の約20本の嗅糸(fila olfactoria)が篩板上面に位置する嗅球(bulbus olfactorius)へと通過します (Sinnatamby, 2018; Drake et al., 2019)。この多孔性の構造が「篩(ふるい)」に似ていることから、篩骨という名称の由来となっています。

篩板の中央部はやや隆起しており、この部分から垂直に立ち上がる突起が鶏冠(crista galli)です。篩板は頭蓋底の中で最も薄い部分の一つであり、その厚さは0.05〜0.5mmと報告されています (Keros, 1962)。Kerosの分類によれば、篩板の深さ(嗅窩の深さ)には個体差があり、これが外科手術時のリスク評価に重要です (Stammberger and Kennedy, 2017)。

2. 垂直板(Lamina perpendicularis)

垂直板は篩板の中央から下方へ垂直に伸びる薄い骨板で、鼻中隔(septum nasi)の上部を形成します。上部は鶏冠として前頭蓋窩内に突出し、大脳鎌(falx cerebri)の前下端が付着する部位となります。下部は鋤骨(vomer)と結合し、鼻中隔の骨性部分を完成させます (Drake et al., 2019; Moore et al., 2018)。

鶏冠の高さは個体差が大きく、5〜15mmの範囲で変動します。鶏冠の前方には小さな孔である盲孔(foramen cecum)が存在することがあり、胎生期の鼻前頭管の痕跡です。成人では通常閉鎖していますが、約1〜2%の症例では開存しており、髄液漏のリスク因子となります (Stammberger and Kennedy, 2017; Flint et al., 2021)。

3. 篩骨迷路(Labyrinthus ethmoidalis)

篩骨迷路は篩板の両側に位置する複雑な構造で、多数の薄い骨板と含気腔(篩骨蜂巣、cellulae ethmoidales)から構成されます。篩骨蜂巣は通常、前篩骨蜂巣、中篩骨蜂巣、後篩骨蜂巣の3群に分類されますが、その数と配置には大きな個体差があります (Stammberger and Kennedy, 2017)。

篩骨迷路の外側面には眼窩板(lamina orbitalis または lamina papyracea)が位置し、眼窩内側壁を形成します。この骨板は非常に薄く(0.2〜0.4mm)、「紙様板」とも呼ばれます。その内側面は篩骨蜂巣の外側壁を、外側面は眼窩脂肪組織と眼窩内側直筋に接しています (Netter, 2019; Flint et al., 2021)。

篩骨迷路の内側面からは、鼻腔外側壁に向かって上鼻甲介(concha nasalis superior)と中鼻甲介(concha nasalis media)が突出します。これらの鼻甲介は鼻腔の気流調節と加温・加湿機能に重要な役割を果たします (Dalgorf and Harvey, 2019)。上鼻甲介と中鼻甲介の間には上鼻道(meatus nasi superior)が、中鼻甲介と下鼻甲介の間には中鼻道(meatus nasi medius)が形成されます。中鼻道には篩骨漏斗(infundibulum ethmoidale)と半月裂孔(hiatus semilunaris)があり、前頭洞、上顎洞、前篩骨蜂巣の開口部が位置しています (Stammberger and Kennedy, 2017)。

血管供給と神経支配

篩骨領域への動脈血供給は、主に前篩骨動脈(arteria ethmoidalis anterior)と後篩骨動脈(arteria ethmoidalis posterior)によって行われます。これらは眼動脈(arteria ophthalmica)の枝であり、眼窩から篩骨蜂巣へと進入します。前篩骨動脈は篩板を通過して鼻腔に入り、嗅覚領域の粘膜に分布します (Drake et al., 2019; Flint et al., 2021)。

静脈還流は前篩骨静脈と後篩骨静脈を通じて眼静脈へ、さらには海綿静脈洞へと流入します。この静脈系は弁を持たないため、篩骨蜂巣の感染が眼窩や頭蓋内へ逆行性に進展する経路となりえます (Stammberger and Kennedy, 2017)。

感覚神経支配は、主に三叉神経(第V脳神経)の第一枝である眼神経(nervus ophthalmicus)の枝、特に前篩骨神経(nervus ethmoidalis anterior)と後篩骨神経(nervus ethmoidalis posterior)によって行われます。これらの神経は眼窩から篩骨蜂巣を通過し、鼻腔粘膜に分布します (Moore et al., 2018)。

嗅覚は、篩板を通過する嗅神経線維束によって伝達されます。嗅上皮(鼻腔天蓋部に位置)の嗅細胞から伸びる嗅糸が篩板の多数の小孔を通過し、頭蓋内の嗅球に到達します。嗅球からは嗅索(tractus olfactorius)が後方へ伸び、大脳辺縁系へと情報を伝達します (Leopold et al., 2016; Sinnatamby, 2018)。