中側頭動脈溝 Sulcus arteriae temporalis mediae
中側頭動脈溝は、側頭骨鱗部に形成される重要な解剖学的構造であり、臨床医学において多岐にわたる重要性を持ちます(Standring, 2020)。

J0026 (右の側頭骨:外側からの図)

J0027 (側頭骨:内上方からの図)

J0034 (新生児の右側頭骨:内側からの図)
解剖学的特徴
中側頭動脈溝は、側頭骨の鱗部(pars squamosa ossis temporalis)の外側面に形成される浅い溝状の骨性構造です(Moore et al., 2018)。この溝は、中側頭動脈(arteria temporalis media)の走行に対応して形成されるもので、骨表面における血管の圧痕として観察されます(Standring, 2020)。
位置関係と走行経路:
- 側頭骨鱗部の外側面において、頬骨弓(arcus zygomaticus)の上方約2-3cm、上側頭線(linea temporalis superior)の下方に位置します(Moore et al., 2018)。
- 溝は前方から後方へ、やや上方に向かって弧状に走行し、その長さは通常3-5cmに及びます(Standring, 2020)。
- 溝の深さには顕著な個体差があり、明瞭に観察できる深い溝を呈する場合から、ほとんど認識できない浅い圧痕まで様々です(Netter, 2019)。この変異は、動脈の太さや走行パターン、骨の形成過程における個体差に起因します(White et al., 2012)。
- 成人の頭蓋骨において最も明瞭に観察され、新生児や幼児期の頭蓋骨では不明瞭または認識困難なことが多い(White et al., 2012)。これは、血管系の発達と骨の成熟に伴って溝が形成されることを示しています。
血管解剖学的詳細:
この溝内を走行する中側頭動脈は、浅側頭動脈(arteria temporalis superficialis)の主要な分枝の一つであり、外頸動脈系に属します(Drake et al., 2020)。中側頭動脈は、浅側頭動脈から頬骨弓の上方で分岐し、側頭筋膜の深層(lamina profunda fasciae temporalis)を貫通した後、側頭筋(musculus temporalis)の表層を上行します(Tubbs et al., 2016)。
動脈は側頭筋の筋束間を走行しながら、側頭筋への栄養血管として多数の筋枝を分岐し、さらに頭皮の深層および側頭部の骨膜に対しても血液を供給します(Drake et al., 2020)。また、眼窩上動脈や前頭枝との間に豊富な吻合を形成し、側頭部における重要な血管網を構成しています(Tubbs et al., 2016)。
中側頭動脈の周囲には、中側頭静脈(vena temporalis media)が伴走し、静脈系のドレナージを担っています(Standring, 2020)。これらの血管構造は、側頭筋膜と側頭筋の間の解剖学的層(surgical plane)に位置し、外科的アプローチにおいて重要な指標となります(Greenberg, 2021)。
臨床的意義
外科手術における重要性:
- 側頭部へのアプローチを必要とする脳神経外科手術(pterional approach、temporal craniotomy など)において、中側頭動脈溝は重要な解剖学的ランドマークとなります(Tubbs et al., 2019)。溝の位置を術前に画像診断で確認することで、動脈損傷のリスクを最小限に抑えることができます(Yasargil, 2010)。
- 側頭筋の剥離や側頭開頭術の際、中側頭動脈の走行を正確に把握することで、適切な剥離層を維持し、不要な出血を回避することが可能となります(Greenberg, 2021)。特に、側頭筋膜の深層と浅層の間(interfascial plane)での剥離を行う際に重要です。
- 形成外科領域では、中側頭動脈を栄養血管とする遊離皮弁や局所皮弁の設計に応用されることがあり、血管解剖の正確な理解が必須です(Drake et al., 2020)。
外傷と血管損傷: