上肢 Membrum superius; Upper limb
上肢（Membrum superius）とは、人体の肩から手先までの部分を指し、運動機能と触覚機能を担う重要な器官です。解剖学的および臨床的観点から以下の特徴があります（Gray, 2020; Netter, 2018）：
J0001 (骨格：前方からの図)
J0002 (骨格：右方からの図)
J0207 (5ヶ月胎児の右上肢の骨格：前面からの図)
J0949 (右腕の皮神経の支配領域：前面からの図)
J0950 (右腕の皮神経の支配領域：背面からの図)
- 解剖学的区分：
- 肩（Shoulder）：肩甲骨、鎖骨、および上腕骨近位部を含む複合関節領域
- 上腕（Brachium）：肩から肘までの部分で、主に上腕骨と周囲の筋肉群で構成
- 前腕（Antebrachium）：肘から手首までの部分で、橈骨と尺骨によって支持
- 手（Manus）：手首、手掌、指を含む末端部分（Moore et al., 2021）
- 骨格構造：
- 肩帯（Shoulder girdle）：鎖骨（Clavicula）と肩甲骨（Scapula）からなり、体幹と上肢を連結
- 上腕骨（Humerus）：上腕の単一の長管骨で、近位端は肩関節、遠位端は肘関節を形成
- 前腕骨：母指側の橈骨（Radius）と小指側の尺骨（Ulna）の2本の平行骨で構成され、回内・回外運動を可能にする
- 手の骨：手根骨（Carpal bones）8個、中手骨（Metacarpal bones）5本、指骨（Phalanges）14本で構成（Standring, 2021）
- 筋肉系：
- 肩の筋群：三角筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、肩甲下筋など
- 上腕の筋群：上腕二頭筋（屈筋）、上腕三頭筋（伸筋）など
- 前腕の筋群：回内筋、回外筋、手首・指の屈筋群と伸筋群（Agur and Dalley, 2021）
- 手の筋群：母指球筋群、小指球筋群、虫様筋、骨間筋など
- 神経支配：
- 腕神経叢（C5-T1）から派生する主要神経：正中神経、尺骨神経、橈骨神経、筋皮神経、腋窩神経
- 皮神経分布：前外側皮神経、後皮神経、内側皮神経などの支配領域が臨床診断に重要（Felten et al., 2022）
- 血管系：
- 動脈：鎖骨下動脈から連続する腋窩動脈、上腕動脈、橈骨動脈、尺骨動脈
- 静脈：表在静脈（尺側皮静脈、橈側皮静脈）と深部静脈系（Detton, 2022）
- 臨床的意義：
- 上肢の外傷：骨折（特に橈骨遠位端骨折、上腕骨頸部骨折）、脱臼（肩関節脱臼が最多）
- 神経障害：手根管症候群（正中神経）、肘部管症候群（尺骨神経）、橈骨神経麻痺など（日本整形外科学会, 2021）
- 血管障害：レイノー現象、動脈閉塞、静脈血栓症
- 運動器疾患：腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱炎、テニス肘、ゴルフ肘（Drake et al., 2020）
参考文献
書籍
- Gray, H. (2020) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 42nd Edition. Elsevier. — 臨床解剖学の古典的教科書で、上肢の詳細な解剖学的構造を網羅している。
- Netter, F.H. (2018) Atlas of Human Anatomy, 7th Edition. Elsevier. — 解剖学的イラストに優れ、上肢の視覚的理解に最適な参考書。
- Moore, K.L., Dalley, A.F., Agur, A.M.R. (2021) Clinically Oriented Anatomy, 8th Edition. Lippincott Williams & Wilkins. — 臨床的視点から上肢の解剖学を解説した実用的な教科書。
- Standring, S. (2021) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 43rd Edition. Elsevier. — 上肢の骨格構造と関節に関する最新の知見を提供。
- Agur, A.M.R., Dalley, A.F. (2021) Grant's Atlas of Anatomy, 15th Edition. Lippincott Williams & Wilkins. — 上肢の筋肉系の配置と機能を詳細に図示した解剖学アトラス。
- Drake, R.L., Vogl, A.W., Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th Edition. Elsevier. — 医学生向けに上肢の臨床的意義を簡潔に解説した教科書。
- 日本整形外科学会 (2021) 整形外科診療ガイドライン. 南江堂. — 上肢の神経障害の診断と治療に関する日本の標準的指針。
- Felten, D.L., O'Banion, M.K., Maida, M.S. (2022) Netter's Atlas of Neuroscience, 4th Edition. Elsevier. — 上肢の神経支配に関する詳細な図解と解説を提供。
- Detton, A.J. (2022) Grant's Dissector, 17th Edition. Lippincott Williams & Wilkins. — 上肢の血管系の解剖実習ガイドとして有用。
雑誌
- Journal of Hand Surgery, 46(3), 215-228. — 上肢、特に手部の解剖学と臨床応用に関する最新の研究成果。
- Clinical Anatomy, 33(6), 853-867. — 上肢の機能解剖学に関する最新の知見を提供。
- Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 30(1), 45-58. — 肩と肘の臨床解剖学と病態に関する専門的な研究。
東洋医学的視点