遠位 Distalis
遠位(distalis)は、解剖学における方向を示す重要な用語で、ある基準点(起始部、付着部、体幹)から遠ざかる方向を指します(Moore et al., 2018)。対義語は近位(proximalis)です。

J0008 (成人の浸出された右脛骨の遠位部分:前頭断図)

J0019 (右の踵骨:外側からの矢状断図)
解剖学的定義
遠位は以下の文脈で使用されます(Standring, 2020):
- 四肢において:体幹から遠い方向。例えば、前腕において手首は肘よりも遠位に位置し、指は手首よりも遠位です。
- 血管・神経において:心臓または起始部から遠い方向。例えば、橈骨動脈の遠位部は手首に近い部分を指します。
- 筋において:筋の起始部から遠く、停止部に近い方向。例えば、上腕二頭筋の遠位腱は橈骨粗面に付着します。
- 骨において:関節面から遠い骨幹部や骨端。例えば、脛骨遠位端は足関節を構成する部分です。
臨床的意義
遠位という用語は臨床医学において以下の場面で重要です(Netter, 2019):
- 骨折の記述:「橈骨遠位端骨折(Colles骨折)」は手首近くの橈骨骨折を指し、高齢者の転倒で頻発します(Wolfe et al., 2011)。
- 血管疾患:「遠位塞栓」は血栓が末梢血管に詰まる状態で、手指や足趾の虚血を引き起こします(Norgren et al., 2007)。
- 神経障害:「遠位型多発神経炎」は末梢神経の障害で、手足の先端から症状が始まります(糖尿病性神経障害など)(Tesfaye et al., 2010)。
- 腫瘍の位置:「大腿骨遠位部骨肉腫」など、病変の正確な位置を示します(Luetke et al., 2014)。
- 手術記録:「遠位端から5cm」など、解剖学的ランドマークからの距離を記述します。
具体例
- 上肢:肩関節→上腕→肘関節→前腕→手関節→手→指の順に遠位となります。
- 下肢:股関節→大腿→膝関節→下腿→足関節→足→趾の順に遠位となります。
- 消化管:胃の遠位部は幽門側、腸管では肛門側を遠位とします。