これは大唾液腺の中で最大のもので、頭部の側面で耳のすぐ前、また胸鎖乳突筋の前縁のすぐ前に位置し、下顎枝および咬筋の上に乗っている。耳下腺は1つの大きな突出部、すなわち下顎後突起Processus retromandibularisを持っており、この突起は下顎枝の後縁と外耳道の間の空間を埋めて深く入り込み、顎二腹筋・茎状突起・茎状突起から起こる諸筋・内外の両翼突筋にまで達している。
**局所解剖:**耳下腺は後方を外耳道、乳様突起および胸鎖乳突筋によって境され、下方は下顎角をやや越えている。上方は頬骨弓に接し、あるいはこの弓の下で塊をなし、さらに下顎骨および咬筋の上を前方に向かって伸びている。耳下腺の垂直径は4~5cm、上方での幅は3~3.5cm、厚さは2~2.5cmで、重さは20~30gである。耳下腺の外面は膨らんで隆起し分葉状を呈し、耳下腺咬筋膜Fascia parotideomassetericaによって覆われ、その上を広頚筋の一部と皮膚が被っている。
内頚動脈と内頚静脈は耳下腺の内面の近くに位置する。外頚動脈は下顎後静脈を伴って腺内に入り、ここで浅側頭動脈と顎動脈の2本の終枝に分かれる。顔面神経はこの腺を貫きながら多くの枝に分岐する。また大耳介神経の枝の一部がこの腺を貫いている。
この腺の前方部から太さ3~4mm、長さ5~6cmの導管、すなわち耳下腺管Ductus parotidicusが出ており、この導管に接して咬筋の上に副耳下腺Glandula parotis accessoriaがしばしば見られる。耳下腺管は頬骨弓の下方約1cmのところを咬筋の表面を越えて前方に進み、この筋の前縁を回って内側に深く入り、頬筋を貫いて、この筋と頬粘膜の間を短い距離だけ前方に走った後、上の第2大臼歯の歯冠の高さで、頬唾液乳頭Papilla salivaria buccalisにおいて開口している。
耳下腺に分布する動脈はこの腺を貫く血管から来ている。静脈は相応する静脈幹に流れ込む。また、この腺から出るリンパ管は頚部の浅および深リンパ節に達する。少数のリンパ節がしばしばこの腺の内部に存在する。
神経は交感神経と舌咽神経から来ている。舌咽神経の線維は小浅錐体神経を経て耳神経節に至り、次いで耳介側頭神経に入り、これより耳下腺枝Rr. parotidiciとしてこの腺に達する(伝導路の項を参照せよ)。
極めてまれに耳下腺およびその導管が完全に欠如していることがある(Singer, R., Anat. Anz., 60. Bd., 1925, 26)。