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頭蓋の下部は、前後方向では後頭鱗の上項線から切歯まで、横方向では一側の歯列弓および乳様突起から対側のそれらまでの範囲を指す。下顎骨を取り除くと、前部・中部・後部に区分される。
前部は口腔の天井と鼻腔の床を形成し、骨口蓋と上歯列弓Arcus dentalis maxillarisから構成される。(この部分の詳細については192頁、口蓋の項を参照。)
また、内臓弓由来の骨格を全て除去すると、神経頭蓋Neurocraniumの底の前部が露出する。
頭蓋底の中部、すなわち中央領域は、骨口蓋の後縁から大後頭孔の前縁まで及び、側方では側頭下稜、頬骨弓、乳様突起にまで達する。この中央領域は非常に複雑で、その中心に特別な部位を含む。それが頭蓋底の咽頭領域Schlundfeld der Schädelbasis(RK271(頭蓋底外面の中央部) )であり、咽頭円蓋を受け、前方で鼻腔に連続する。頭蓋底中央領域の前外側部は側頭下窩Fossa infratemporalisを形成し、これについては既述の通りである。
咽頭領域の形状は、以下のような境界線で表現できる。この線は咽頭結節付近から始まり、前方に突出した頭長筋起始部の前縁に沿って錐体後頭裂に達し、さらに頚動脈管の外口の前を蝶形骨棘に向かう。この棘から口蓋帆挙筋によって隔てられながら進み、蝶形骨の翼状突起内側板の基部に至る。それより内側では、咽頭領域は鼻腔の天井に連続する。
頭蓋底の中央領域では、さらに以下の構造に注目すべきである。骨口蓋には翼状突起の内側板と外側板が接着し、前者には翼突鈎Hamulus pterygoideusが付着する。両板の間には翼突窩Fossa pterygoideaがあり、その形成には口蓋骨も関与する。口蓋骨の口蓋板の上方で、左右の後鼻孔Choanaeが鋤骨の鋭い後縁によって分けられ、鼻腔に通じている。後鼻孔の周壁は口蓋骨の口蓋板、蝶形骨の翼状突起内側板および鞘状突起、鋤骨翼、鋤骨の後稜によって構成される。
鼻腔内部を観察すると、3つの甲介と3つの鼻道、そして蝶篩陥凹の下端が容易に確認できる。蝶形骨体の下面には2つの小管がある。内側にあるのが頭底咽頭管Canalis basipharyngicusで、鋤骨翼の外側にあるのが咽頭管Canalis pharyngicusだ。翼状突起の基部には、翼突窩の上方で内側板に近接して舟状窩Fossa scaphoidesがあり、ここから口蓋帆張筋の一部が起始する。さらに外側には三叉神経第3枝が通過する卵円孔Foramen ovaleがあり、その近傍に棘孔Foramen spinaeが位置する。棘孔の後方には、発達程度に個体差のある蝶形骨棘Spina ossis sphenoidisが突出している。卵円孔・棘孔・蝶形骨棘を結ぶ線にほぼ平行して、蝶[骨]錐体裂Fissura sphenopetrosaと耳管溝Sulcus tubae pharyngotympanicaeが走行している。耳管溝は大翼に属し、錐体尖で筋管総管に連絡する。
鋤骨の後方には後頭骨の底部Pars basialisが続く。頭蓋咽頭管Canalis craniopharyngicusが存在する可能性があるため、注意が必要である。大後頭孔の前縁からやや離れた位置に咽頭結節Tuberculum pharyngicumが突出している。その側方には、斜め前外側に互いに平行な2本の隆起線が走っている。前方の1本は頭長筋、後方の1本は前頭直筋の付着部である。大後頭孔の側縁の脇には、両側に後頭顆Condylus occipitalisがある。
後頭骨の底部と翼状突起の底および錐体尖の間には破裂孔Foramen lacerumがあり、頭底線維軟骨Fibrocartilago basialisで塞がれている。側頭骨の表面には頚動脈管の外口Apertura externa canalis caroticiがあり、さらにその外側には関節結節Tuberculum articulare、下顎窩Fossa mandibularis、錐体鼓室裂と錐体鱗裂Fissurae petrotympanica et petrosquamalisがある。
頭蓋底の外面の後部にはまず大後頭孔があり、その傍らには後頭顆がある。さらにその脇には後頭骨の外側部Pars lateralisとその乳突傍突起Processus paramastoideusがある。後頭顆の上外側に舌下神経管Canalis n. hypoglossiが開口し、後頭顆の後ろには顆管Canalis condylicusが開く。後頭骨の外側部と側頭骨の間には頚静脈孔Foramen jugulareがあり、頚静脈孔内突起Processus intrajugularesによって2つの部分に分けられている。茎状突起鞘Vagina processus styloidisに囲まれた茎状突起Processus styloides、茎乳突孔Foramen stylomastoideum、乳様突起Processus mastoideusなどが見られるが、ここでは詳述しない。
乳様突起の内側には非常に変異に富む乳突切痕Incisura mastoideaがあり、顎二腹筋の後腹の起始部となっている。この切痕と平行して、同じく変異の大きい後頭動脈溝Sulcus arteriae occipitalisが、ひとつの骨隆起上を走っている。後頭乳突縫合内またはその近傍に乳突孔Foramen mastoideumが1つ以上開口している。
頭蓋底の後部の項領域Nackenfeldは後頭鱗の項平面Planum nuchaleに属している。これは大後頭孔の後縁から外側へ乳様突起の後縁まで伸び、上項線まで広がっている。ただし、これは局所解剖学的な境界であり、形態学的にみた頭蓋底の境界は後方では大後頭孔の前縁までである。項領域では正中部を走る外後頭稜Crista occipitalis externa、項平面線Linea nuchalis plana、分界項線L. nuchalis terminalis、上項線L. nuchalis superior、外後頭隆起Protuberantia occipitalis externaなどに注意すべきである。
[図271] 頭蓋底外面の中央部(4/5)。頭蓋底の咽頭領域を白線で囲んでいる。
[図272]頭蓋の正中矢状断面(縮尺7/10)(ベルリン解剖学教室所蔵標本)