

J0810 (後期妊娠中の右乳腺:乳房筋に対する位置で自由に調整された標本)
乳輪は、乳頭(nipple)を取り囲む円形の色素沈着した領域です。通常、直径2.5~4.5cmで、その色素沈着度は個人差があり、妊娠経験や年齢、人種などによって異なります(Tobin and Khosrotehrani, 2005)。組織学的には、この領域には平滑筋繊維(乳輪筋)が放射状および同心円状に配列しており、乳頭の勃起や収縮に関与しています(Hassiotou and Geddes, 2013)。
乳輪の表面には乳輪結節(Montgomery結節)と呼ばれる小隆起が存在します。これらは下層の乳輪腺(Montgomery腺)の開口部に相当し、表面には5~15個の小さな突起として散在しています(Smith et al., 2011)。乳輪腺は形態学的に変形した脂腺とアポクリン汗腺の複合体で、約12個前後あり、ほぼ輪状に配列しています。これらの腺は妊娠・授乳期に著明に肥大し、分泌物(脂質成分を含む)を産生して乳頭や乳輪の皮膚を保護し、授乳時の摩擦から守る機能を持ちます(Lawrence and Lawrence, 2016)。
臨床的には、妊娠初期(約12週頃)から乳輪の色調が濃くなり始め、エストロゲンとプロゲステロンの影響により、乳輪腺も顕著に発達して隆起が明瞭になります(Neville, 2007)。この変化は初期妊娠の兆候の一つとして重要です。また、乳輪の色素沈着や形態の異常は、時に内分泌疾患や乳腺疾患の徴候となることもあります。Paget病などの乳頭・乳輪領域に現れる皮膚病変は、乳癌との関連性が指摘されており、診察時に注意が必要です(Karakas, 2011)。
乳輪および乳房領域は、東洋医学において複数の経絡が交差する重要な部位として認識されています。特に足陽明胃経と足厥陰肝経が乳房部を通過し、乳輪周囲には重要な経穴が分布しています(WHO, 2008)。乳根(ST18)は乳輪の下方約2横指の位置に存在し、乳汁分泌不全や乳腺炎の治療に用いられます(Deadman et al., 2016)。また、膺窓(ST16)、乳中(ST17)などの胃経の経穴も乳房の健康維持に関与するとされています。
解剖学的には、これらの経穴の位置は乳腺組織、乳管、神経血管束の分布と密接に関連しており、現代の神経解剖学的研究により、経穴部位が感覚神経の分布密度の高い領域と一致することが示されています(Li et al., 2012)。第4肋間神経の外側皮枝が乳輪周囲の知覚を支配しており、これが鍼刺激による治療効果の神経生理学的基盤となっている可能性が指摘されています(Zhang et al., 2014)。