乳房 Mamma

乳房は女性の乳分泌器官であり、乳腺、周囲の疎性線維結合組織、および脂肪組織から構成されています(Moore et al., 2018)。解剖学的には、乳房は浅胸筋膜と深胸筋膜の間の浅胸筋膜後葉に位置し、第2から第6肋骨の高さにわたる胸部前面に位置しています。乳房の基底部は楕円形で、その3分の2は大胸筋の上に、3分の1は前鋸筋の上に位置します(Gray, 2020)。

構造と機能

乳腺そのものは15〜20の腺葉(lobi glandulae mammariae)に分けられ、各腺葉は独立した分泌単位で、それぞれが乳頭(papilla mammaria)に開口する乳管(ductus lactiferi)を持ちます(Standring, 2021)。乳頭の周囲には色素沈着した乳輪(areola mammae)があり、その下には平滑筋(m. areolaris)が存在し、授乳時に乳頭の勃起を助けます。

臨床的意義

臨床的には、乳房は外側上部、内側上部、外側下部、内側下部の4象限に区分され、最も病変が多いのは外側上部です(Ellis and Mahadevan, 2019)。また、腋窩から乳房上外側に伸びる「Spence腋窩尾(axillary tail of Spence)」は、乳癌検査で重要な領域です。乳房のリンパ排液は主に腋窩リンパ節へ向かい、また胸骨傍リンパ節や鎖骨下リンパ節にも排液されるため、乳癌のリンパ節転移評価に重要です(Agur and Dalley, 2017)。

発達と変化

乳房は思春期にエストロゲンとプロゲステロンの影響で発達し、妊娠・授乳期には特に発達します(Netter, 2019)。一方、男性の乳房は通常わずかな痕跡的構造のみですが、女性化乳房症(gynecomastia)では異常に発達することがあります。

参考文献

J809.png

J0809 (18歳女性の右乳房)

J810.png

J0810 (後期妊娠中の右乳腺:乳房筋に対する位置で自由に調整された標本)

J811.png

J0811 (妊娠中の右乳房の水平断、上半分:下方からの図)