
J1051 (前庭と半規管は、浸軟化された骨から外側に開く)
骨半規管(canales semicirculares ossei)は、側頭骨岩様部内の骨迷路に存在する3本のC字状の骨性管路で、それぞれの直径は約0.8mmです(Gray and Williams, 2000)。各半規管の内部には、内リンパ液で満たされた膜半規管(ductus semicirculares)が収容され、骨半規管と膜半規管の間の空間は外リンパ液(perilympha)で満たされています(Standring, 2020)。
骨半規管は前半規管(canalis semicircularis anterior/superior)、後半規管(canalis semicircularis posterior)、外側半規管(canalis semicircularis lateralis)の3つから構成されます(Standring, 2020)。これらは互いにほぼ直角(約90°)に配置され、三次元空間におけるあらゆる方向の回転運動を検出できる構造となっています(Purves et al., 2018)。
各半規管は前庭(vestibulum)に連なる2つの脚を持ちます。膨大脚(crus ampullare)と単脚(crus simplex)です(Gray and Williams, 2000)。膨大脚の基部には骨膨大部(ampulla ossea)と呼ばれる膨らみがあり、ここに感覚受容器が位置します。前半規管と後半規管の単脚は合流して共脚(crus commune)を形成するため、3つの半規管は前庭に対して合計5つの開口部で接続しています(Standring, 2020)。
骨膨大部内部の膜半規管には膨大部稜(crista ampullaris)という感覚上皮が存在し、ここに有毛細胞(hair cells)が配列しています(Purves et al., 2018)。有毛細胞の線毛はクプラ(cupula)というゼラチン状の構造物に埋め込まれており、内リンパ液の流動によってクプラが偏位することで刺激が生じます。
骨半規管は平衡感覚のうち、特に角加速度(回転性運動)を検出する器官です(Purves et al., 2018)。頭部が回転すると、慣性により内リンパ液が相対的に遅れて動き、この流れがクプラを偏位させます。クプラの偏位により有毛細胞が刺激され、神経インパルスが発生します。
膨大部稜の有毛細胞からの情報は前庭神経(nervus vestibularis)を介して脳幹の前庭神経核に伝達され、さらに小脳、眼球運動核、脊髄へと投射されます(Purves et al., 2018)。これにより、身体の空間的位置と運動の認識、姿勢制御、前庭動眼反射(VOR)などが実現されます。
骨半規管の障害で最も頻度が高いのは良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV)です(Bhattacharyya et al., 2017)。これは耳石器(卵形嚢や球形嚢)から遊離した耳石が半規管内(特に後半規管)に迷入し、頭位変換時に異常な内リンパ流動を引き起こすことで回転性めまいが生じる疾患です。診断にはDix-Hallpikeテストなどの特殊な体位変換検査が用いられ、Epley法やSemont法などの理学的治療(canalith repositioning maneuver)が高い有効性を示します(Bhattacharyya et al., 2017)。