後大腿皮神経は、仙骨神経叢のS1~S3から発生し、大坐骨孔を通り、梨状筋の下を経由して臀部に出ます。この神経は、坐骨神経と大臀筋の間を下行し、大腿二頭筋よりも浅い層を横切りながら、大腿後部の深層筋膜内を進行します。膝窩に達すると、後大腿皮神経の本幹は深層筋膜を貫通し、皮膚に向かいます。
日本人のからだ(秋田恵一 2000)によると
後大腿皮神経は、大腿と膝関節の後側の皮膚に分布する皮神経であり、大殿筋下縁付近の皮膚に分布する下殿皮神経や会陰外側部に分布する会陰枝も含まれています。後大腿皮神経の起始根は、概ねS1-3、特にS2を中心にし、L4-5からの起始はまれです(表92)(参考:松井, 1926; 櫛田,1940; 西野,1954; 小牧, 1960 b; Nakanishi et al., 1976)。起始根数は、最も多いのは2根で、次いで1根上りの起始が多いとされています(小牧, 1960 b; Nakanishi et al., 1976)。後大腿皮神経と下殿神経の起始部で共通幹を形成することは、94.6%で見られると報告されています(Nakanishi et al., 1976)。
後大腿皮神経は、大腿後部を1-2本の神経として通っている印象が強いです(表92)。しかし、実際には下殿神経、総腓骨神経、脛骨神経、陰部神経から起始した複数の神経が合わさっており、それらは明確に分けることが可能です。秋田ら(1993)は、仙骨神経叢各枝と陰部神経から起始する皮神経を一つの連続体として扱い、仙骨神経叢でより背側に起始した神経は大腿後部のより外側に、より腹側に起始した神経は大腿後部から会陰にかけてより内側に分布する傾向があると報告しています。
表92 後大腿皮神経の起始根と条数(%)
a.起始根
右 | 左 | 計 | |
---|---|---|---|
L5-S2 | 0 | 1 | 1 (1.4) |
S1-2 | 12 | 12 | 24 (32.4) |
S1-3 | 6 | 11 | 17 (23.0) |
S2 | 4 | 1 | 5 (6.8) |
S2-3 | 13 | 10 | 23 (31.1) |
S2-4 | 2 | 2 | 4 (5.4) |
37 | 37 | 74 (100.0) |
b.条数
右 | 左 | 計 | |
---|---|---|---|
1 | 17 | 26 | 43 (58.1) |
2 | 19 | 10 | 29 (39.2) |
3 | 1 | 1 | 2 (2.7) |
37 | 37 | 74 (100.0) |
(Nakanishi et al., 1976)
仙結節靭帯貫通神経
神経が仙結節靭帯を貫くことは、仙骨神経前枝の枝だけでなく、後枝の枝でもしばしば観察されます。
Eisler (1891)は、仙結節靭帯を貫く神経として以下の3種を挙げています。
①N. cutaneus perinei: 仙結節靭帯を貫き坐骨結節に達し、これを越えて後大腿皮神経と交通する神経。
②Rr. sacrales posteriores: 仙結節靭帯を貫通する仙骨神経の後枝(中殿皮神経)。
③N. perforans lig- sacrotüberosi: 第3仙骨神経の前枝から起こり、仙結節靭帯を貫き、大殿筋下縁の近くに分布する神経。しかし、一般に言う仙結節靭帯貫通神経とは、Eisler(1891)の指摘するN. perforans lig. sacrotüberosiのみの記述が多いです。仲西(1967 a)、稲垣(1983)は、仙結節靭帯を貫通する全ての神経を詳細に調査し、整理しています。稲垣(1983)は、仙結節靭帯を貫く神経を4型に分類できると述べました(図102)。
A型:本神経が陰部神経叢から起こり、仙結節靭帯を貫き、坐骨結節に達し、陰嚢(大陰唇)後部外側部および大腿内側部の皮膚に分布する(30.8%)。