腰仙骨神経叢

腰仙骨神経叢は、第1~第5腰神経の前枝から形成される腰神経叢と、腰仙骨神経幹(第4腰神経前枝と第5腰神経前枝の一部の線維)を含む構成によって作られます。これにより、腰神経前枝からの線維が加わることで、腰神経叢と仙骨神経叢の間に連続性が生まれます。その結果、これら二つの神経叢は概念的に腰仙骨神経叢として一つにまとめられます。

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

腰神経叢と仙骨神経叢に参加する神経、または大腿神経、閉鎖神経、腰仙骨神経幹に分岐する神経を分岐神経と呼び、通常は第4腰神経前枝(L4=第24脊髄神経)を指しています。分岐神経は腰神経叢の下界、仙骨神経叢の上界を示すだけでなく、大腿神経と閉鎖神経に含まれる最下位の脊髄分節、坐骨神経、上殿神経、外旋筋群の筋枝の最上位の脊髄分節も示しています。

分岐神経の位置的変化は、腰仙骨神経叢全体の頭方または尾方への移動を反映しています。このような腰神経叢の位置的変化は、大腿神経、閉鎖神経の上界と下界を構成する脊髄分節、腸骨下腹神経と腸骨鼠径神経の脊髄分節構成などからも判断できます。分岐神経の位置的変化は、仙前椎数の変化などと密接に関連しており、その変異から分岐神経や腰仙骨神経叢の位置的変化を類推できます。

分岐神経は時々、1分節頭側または尾側にずれて、第3腰神経前枝(L3)、第5腰神経前枝(L5)に由来する場合や、2つの腰神経にまたがる場合もあります。また、第2腰神経(第22脊髄神経)、第1仙骨神経(第26脊髄神経)が分岐神経となる例はこれまで確認されていません。

分岐神経の形態は、その由来と3枝の相対的な太さに基づいて分類されています。分岐神経が第4腰神経(L4)の場合でも、3枝の相対的な太さによって、それぞれ異なる型として区別できます。分岐神経が2つの腰神経にまたがる場合には、下位の分岐神経が大腿神経と腰仙骨神経幹に二分するものと、大腿神経、閉鎖神経、腰仙骨神経幹とに三分するものを区別できます。

分岐神経の頭方への移動型では、仙前椎数の減少、第12肋骨の短縮や欠如、岬角の頭方移動と重複岬角、仙腸関節とヤコビーJacoby線の頭方移動を伴うことが多いです。これに対して、分岐神経の尾方への移動型では、腰仙骨神経叢と各神経の後置型、仙前椎数の増加、第12肋骨の長さの増加や第13肋骨の出現、岬角の尾方移動と重複岬角、仙腸関節とヤコビー線の尾方移動を伴うことが多いです。

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図97 分岐神経の形態(千葉ら, 1994)

図97 分岐神経の形態

( )は445例中の出現頻度を示します。分岐神経は、大腿神経(Fem)、閉鎖神経(Obt)、腰仙骨神経幹(Ts)に分けられるか、または腰・仙骨神経叢の双方にまたがる神経と定義され、通常はL4(第24脊髄神経)に相当します。上段には分岐神経(点線で示す)の頭方移動型(L3、L3・L4型)、下段には尾方移動型(L4・L5型)を示し、後者が前者よりも数倍多く出現しています。

分岐神経が重複する場合(L3・L4, L4・L5型)には、下位の分岐神経はa型では二分、b型では三分しています。その際、a型はb型よりもわずかに頭方に移動しています。中段のL4が分岐神経でも、腰仙骨神経幹への枝が太い(L)、通常(N)、細い(S)場合を区別できます。

L4・TsL型はL4・TsN型(正常例)よりも神経叢がわずかに頭方に移動し、反対にL4・TsS型はL4・TsN型よりもわずかに尾方に移動しています。分岐神経の変化は、腰・仙骨神経叢の移動、仙前椎数の変化、岬角の形態などと密接に関連しています。