腰仙骨神経叢 Plexus lumbosacralis
1. 解剖学的基本構造
- 腰仙骨神経叢は、第1~第5腰神経の前枝による腰神経叢と、腰仙骨神経幹により形成される複合的な神経叢である。
- 構成要素の詳細:
- 腰神経叢:第1~第4腰神経の前枝により形成され、主に下肢前面の神経支配を担う。
- 仙骨神経叢:第4、第5腰神経と第1~第4仙骨神経の前枝により形成され、主に下肢後面の神経支配を担う。
- 腰仙骨神経幹:第4、第5腰神経の前枝の一部から形成され、両神経叢を連結する重要な架け橋となる。
2. 主要な神経分枝
- 腰神経叢からの分枝:
- 大腿神経:大腿前面の筋群と皮膚の支配
- 閉鎖神経:内転筋群の支配
- 腸骨下腹神経:腹壁下部の支配
- 腸骨鼠径神経:鼠径部周辺の皮膚感覚支配
- 仙骨神経叢からの分枝:
- 坐骨神経:下肢後面の主要な運動・感覚支配
- 上殿神経:中殿筋、小殿筋の支配
- 下殿神経:大殿筋の支配
- 陰部神経:会陰部の感覚・運動支配
3. 分岐神経の特性と変異
- 基本的特徴:
- 標準的には第4腰神経前枝(L4)が分岐神経となり、腰神経叢と仙骨神経叢の境界を形成する。
- 変異として、第3腰神経前枝(L3)または第5腰神経前枝(L5)が分岐神経となることがある。
- 第2腰神経および第1仙骨神経での分岐例は報告されていない。
- 形態学的分類:
- 大腿神経、閉鎖神経、腰仙骨神経幹の3枝の相対的太さにより分類される。
- 単一分節型(L4)が最も一般的である。
- 二分節型(L3・L4型、L4・L5型)では、二分または三分パターンが観察される。
4. 臨床解剖学的意義
- 神経支配の指標:
- 大腿神経と閉鎖神経の最下位脊髄分節を示す。
- 坐骨神経、上殿神経、外旋筋群への筋枝の最上位脊髄分節を示す。
- 下肢の運動・感覚神経支配の境界となる重要な指標である。
5. 位置的変異と関連所見
- 頭方移動型の特徴:
- 仙前椎数の減少
- 第12肋骨の短縮または欠如
- 岬角の頭方移動
- 尾方移動型の特徴:
- 仙前椎数の増加
- 第12肋骨の長さの増加
- 第13肋骨の出現
- 岬角の尾方移動と重複岬角
- 仙腸関節とヤコビー線の尾方移動
6. 臨床応用
- 診断への活用:
- 腰部神経根症状の正確な診断
- 神経根ブロックの適切な実施
- 手術アプローチの最適な計画立案
- 画像診断での重要性:
- MRI・CTにおける神経根の詳細な評価
- 神経根症状と画像所見の正確な相関関係の把握
7. 研究と臨床実践の発展
- 解剖学的変異の理解は、より正確な神経学的症状の評価を可能にする。
- 個々の患者の特性を考慮した、より効果的な治療計画の立案が可能となる。
- 手術における神経損傷リスクを最小限に抑えることに貢献する。

J0955 (右側の腰仙骨神経叢:図解)

J0956 (腰仙骨神経叢:前方からの図)