頚神経叢

頚神経叢とは、頚部の脊髄から発生し、第1~4頚神経の前枝が互いに吻合して形成される神経の網目を指します。頚神経叢からは、頚神経ワナ、横隔神経などの筋枝と、小後頭神経、大耳介神経、頚横神経、鎖骨上神経などの皮枝が分岐し、それぞれ末梢側に向かいます。

頚神経ワナは第1~2頚髄の前角に細胞体を持つ運動ニューロンの神経突起を含み、舌骨下筋群に分布する枝を有しています。横隔神経は横隔膜に分布します。

一方、皮枝に含まれるのは、頚神経後根の脊髄神経節に細胞体を持つ知覚ニューロンの末梢側突起、すなわち樹状突起のみであり、これらは後頭部、頚部、および肩の部分の皮膚に分布して、そこからの知覚を頚髄に伝えます。

鎖骨上神経は分布領域の違いから、内側[前]鎖骨上神経、中間鎖骨上神経、および外側[後]鎖骨上神経の三者に区別されます。これらは頚部、胸部上部、肩部に運動・知覚機能を供給する神経のネットワークです。

日本人のからだ(秋田恵一 2000)によると

頚部、特に項部と後頭部には頚神経の後枝も分布しますが、ここでは頚部の大部分を占める脊髄神経前枝の皮枝について説明します。頚神経叢の皮枝は、体幹の肋間神経外側皮枝に相当すると考えられています(Bolk, 1898; Kohlbrügge, 1898)。肋間神経頚部の皮神経は、頭と上肢の形成に大きな影響を受け、体幹の皮神経には見られない特性がいくつかあります。

その分布範囲は広く、頚部だけでなく後頭部、肩、上胸部まで及びます。C5以下が上肢形成に関与するため、通常はC2、C3、C4の3つの分節のみが関与します。関与する神経節は神経叢を形成するため、末梢分布の分節性は不明瞭となります。

頚部の皮神経は全て、胸鎖乳突筋の中央1/3の高さで後縁に集まり、頚部神経点に向けて扇状に広がります。頚部の皮神経は、節膜下に現れてから末梢分布先までの距離が長い長枝と、長枝の分布域間に発生する空白を埋める短枝の組み合わせで構成されています(図54)(中野,1977)。

各神経が起始する髄節の高さについては、小山(1934)、Maruyama(1944)、森(1960)、風間(1961)、中野(1977)、木田(1987)を参照してください。

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図54 頚神経叢皮枝の形態(中野,1977)

図54 頚神経叢皮枝の形態

A: 頚神経長枝の走行と分布、そして長枝を基準にした頚部の区分を示しています。a-gは、頚神経長枝分布域間に分布する短枝の分枝の分布域を指しています(cは、頚神経との混同を避けるために使用されていません)。

B: 頚部皮神経の剖出例を示しています。a、d、e、g領域に短枝が見られます。a領域では、a1は第2大耳介神経、a2は第2小後頭神経を指しています。OMaは大後頭神経、OMdは小後神経後枝、OMvは小後頭神経前枝、SCiは中間鎖骨上神経、SC1は外側鎖骨上神経、SCmは内側鎖骨上神経、Tは後頚横神経、TCは頚横神経を意味します。

短枝