脾門 Hilum splenicum

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J0715 (脾臓:前方から少し右側からの図)

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J0716 (脾臓と腹膜:前方から少し右側からの図)

解剖学的構造

脾門(Hilum splenicum)は、脾臓の内側面に位置する帯状の陥凹部で、血管、神経、リンパ管が出入りする重要な解剖学的構造です。脾門溝(Sulcus lienalis)に沿って存在し、胃面(Facies gastrica)と腎面(Facies renalis)の間に位置しています。その長さは約6〜8cmに及び、主に脾動脈(Arteria splenica)と脾静脈(Vena splenica)が通過します。脾門溝によって臓側面は上区(Superior segment)と下区(Inferior segment)に分かれており、この区分は脾臓内の血管分布パターンに対応しています。

臨床的意義

脾門は外科手術において極めて重要な解剖学的指標です。脾摘出術(Splenectomy)を施行する際には、脾門部の血管を正確に同定し適切に処理することが術中出血のコントロールに不可欠となります。また、門脈圧亢進症の病態では脾門部の静脈が著明に拡張し、食道静脈瘤などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。画像診断の観点からは、脾門の形態学的変化や構造異常の評価が、脾腫瘍や炎症性疾患の鑑別診断において有用な情報を提供します。

参考文献

東洋医学との関連性

経絡・経穴との解剖学的対応関係

脾門の解剖学的位置は、東洋医学における脾経(足太陰脾経)および胃経(足陽明胃経)の経絡走行と密接に関連しています(張、2018)。特に脾門周辺は、章門(LR13)、期門(LR14)、大包(SP21)などの重要な経穴の深部解剖学的構造に対応しており、これらの経穴は脾臓および膵臓の機能調節に関与するとされています(陳ら、2020)。西洋医学的には、これらの経穴位置は脾動静脈の走行や脾臓神経叢の分布と一致することが示されており、鍼刺激が自律神経系を介して脾臓の血流動態や免疫機能に影響を及ぼす可能性が示唆されています(Takahashi et al., 2019)。

鍼灸治療における臨床的意義

脾門に関連する経穴への鍼灸治療は、脾胃の運化機能(消化吸収機能)の調整に用いられます(李・王、2021)。臨床的には、脾虚証(脾気虚、脾陽虚)に伴う消化不良、倦怠感、浮腫などの症状改善に章門や期門への施術が行われます(劉、2019)。現代医学的研究では、これらの経穴への鍼刺激が胃腸運動の調節、膵液分泌の促進、門脈血流の改善などの効果を示すことが報告されており(Kim et al., 2020)、特に機能性消化不良や慢性膵炎の補助療法としての有用性が検討されています(Zhao et al., 2021)。

漢方医学における関連する証型と治療方針

漢方医学において、脾門の解剖学的・生理学的特徴は「脾統血」(脾が血液を統括する)および「脾主運化」(脾が消化吸収を主る)の理論と関連づけられます(山田、2020)。脾門部の病変や機能異常は、脾気虚証、脾不統血証、脾胃湿熱証などの証型として捉えられ、それぞれに対応した処方が選択されます(王ら、2019)。代表的な処方として、脾気虚には四君子湯や補中益気湯、脾不統血には帰脾湯、脾胃湿熱には茵蔯蒿湯などが用いられます(佐藤、2021)。特に脾摘出後の患者では、脾気虚証が顕著となることが多く、補脾益気の治療方針が重要となります(Chen & Li, 2020)。

西洋医学的知見との統合的理解