門脈

門脈は胃腸、膵臓、脾臓の血液を肝臓に送る静脈で、その名前は肝門を通ることから来ています。門脈の本幹は膵頭の後面で上腸間膜静脈と脾静脈の合流によって始まり、その後で右枝と左枝に分かれ、肝臓の右葉と左葉に広がります。門脈の特徴は、胃腸膵脾の各臓器の毛細血管から発し、肝臓内でもう一度毛細血管になることで、二つの毛細血管床の間を連絡することです。門脈の機能は、胃腸から吸収された物質や胃腸膵内分泌系のホルモンを肝臓に送り、余分な栄養を貯蔵し、有害な物質を解毒することです。また、脾臓では、赤血球の分解によって生成されたビリルビンを門脈によって肝臓に送り、肝細胞の働きによって腸に排出します。

門脈の根には多くの静脈がつながっています。これには胆嚢静脈、臍傍静脈、左胃静脈、右胃静脈、幽門前静脈(これら3つは胃冠状静脈を形成)、短胃静脈、左胃大網静脈、右胃大網静脈、脾静脈、膵静脈、膵十二指腸静脈、上腸間膜静脈、下腸間膜静脈、中結腸静脈、左結腸静脈、右結腸静脈、回結腸静脈、虫垂静脈、空回腸静脈、S状結腸静脈、上直腸静脈などがあります。門脈の根は3つの場所で体循環の静脈と連絡し、血液の流れが悪くなると、これらの連絡経路を通って体循環に戻ろうとします。

なお、門脈という言葉は歴史的には「肝門から肝臓に入る静脈」を指す言葉でしたが、現在では「毛細血管と毛細血管の間にはさまれる静脈」を指すようになっています。通常、血液は動脈→毛細血管→静脈の順に流れますが、門脈系は、この流れの後に再び毛細血管を通るような血管系を指します。門脈は脾静脈と上腸間膜静脈が合流して形成され、肝臓に注がれる血液の80%を占めます。下垂体にも門脈が存在します。

『日本人のからだ(大久保真人 2000)』によると

(1)門脈系の成立の変異

門脈は上腸間膜静脈、脾静脈、下腸間膜静脈の3つが集まることで形成されます。この組み合わせ形態は成人(劉,1929; 森,1941)および胎児(阿曾, 1931: 六反田,1959 a)で調査され、下腸間膜静脈と左胃静脈の開口部の違いにより分類され、報告されています。これを表86にまとめました。それによれば、上腸間膜静脈と脾静脈が合流するパターンが最も多いです。その際、下腸間膜静脈は成人および胎児の男性では脾静脈に開口する例が最も多く、次に上腸間膜静脈に開口する例、そして上腸間膜静脈と脾静脈の合流角に開口する例が少なくなります。一方、胎児の女性では下腸間膜静脈が上腸間膜静脈に開口する例が最も多いです。左胃静脈は成人および胎児ともに、門脈に直接開口する例が最も多く、次に脾静脈に開口する例が続きます。

左胃静脈の開口部位が脾静脈から門脈に渡っていることは、その延長線上では左胃静脈が肝臓に直接開口する可能性も示唆します。しかし、左胃静脈の走行と分布には発生学的な問題が含まれています。

表86には左胃静脈が直接肝臓に分布する2例(174例中)が示されていますが、詳細は不明(劉,1929; 森,1941)。しかし、同様の例について別の2例(245例中)の詳細な所見があります(Miyaki et al., 1987)。それによれば、左胃静脈は肝胃間膜を通って肝臓に達し、1例では左葉内で、他の1例では尾状葉でそれぞれ門脈の枝に吻合していました。これは門脈系の系統発生学的にも、個体発生学的にも問題とされる部分です。発生学的な成書によると、門脈は本来左右対称に出現した卵黄静脈が、その後の発生段階で部分的な吻合と消長によって単一の幹となったものです。卵黄静脈の出現に先立ち、胃腸に沿って腸下静脈が現れ、これが成体の右胃静脈と左胃静脈(両者を合わせて胃冠状静脈:I. N. A., Jena Nomina Anatomica, 1935年)になるとされています(三木,1973)。これらの静脈が直接肝臓に進入していれば、腸下静脈の部分的残存で、左門脈と称されます(Miyaki et al., 1987)。

なお、肝内門脈系に流入する胆嚢静脈については佐藤智丈(1989)、杉田ら(1997)などの研究があります。

表86 門脈の成立状態とその例数.脾静脈,上腸間膜静脈,下腸間膜静脈,3根の集合形態による分類(I-III型)と左胃静脈の流入部位による細分類(a-e型)

表86 門脈の成立状態とその例数.脾静脈,上腸間膜静脈,下腸間膜静脈,3根の集合形態による分類(I-III型)と左胃静脈の流入部位による細分類(a-e型)

a型 b型 c型 d型 e型
I型 阿曾(1931)* 21 6 11 0 0 38
六反田(1959 a)* 16 4 13 0 0 33
劉(1929) 19 5 8 1 33
森(1941) 39 3 33 0 2 74
II型 阿曾(1931)* 2 0 0 0 0 2
六反田(1959 a) 3 1 0 0 1 5
劉(1929) 8 0 0 0 0 8
森(1941) 9 1 6 0 0 16
III型 阿曾(1931)* 9 0 10 0 0 19
六反田(1959 a)* 19 2 20 0 0 41
劉(1929) 6 0 2 1 0 9
森(1941) 19 5 21 1 1 47

*:阿曾(1931)と六反田(1959 a)は胎児,劉(1929)と森(1941)は成人の所見である.

門脈の形成形態を、下腸間膜静脈の開口部により、I型からIII型の3種類に分類しました。I型は、下腸間膜静脈が脾静脈に開口します。II型では、下腸間膜静脈が脾静脈と上腸間膜静脈の合流部に開口します。III型は、下腸間膜静脈が上腸間膜静脈に開口します。さらに、門脈の各型を左胃静脈の開口部により、a型からe型の5種類に細分化しました。a型は、左胃静脈が門脈幹に開口します。b型では、左胃静脈が上腸間膜静脈と脾静脈の合流部に開口します。c型は、左胃静脈が脾静脈に開口します。d型には、左胃静脈が肝臓に直接分布します。e型では、左胃静脈が不明または欠如します。成人では、上腸間膜静脈と脾静脈が合流するI型が最も多い。また、左胃静脈は門脈幹に開口する例(a型)が最も多く、次に多いのは脾静脈に開口する例(c型)です。