基本的解剖構造
門脈は胃腸、膵臓、脾臓の血液を肝臓に送る静脈で、その名前は肝門を通ることから由来しています(Gray and Standring, 2021)。解剖学的には、門脈本幹は膵頭の後面で上腸間膜静脈と脾静脈の合流点から始まり、長さ約6-8cm、直径約1cmの太い血管として肝十二指腸間膜内を走行します。肝門に達すると右枝と左枝に二分岐し、さらに肝臓内で分枝して最終的に肝類洞(特殊な毛細血管)に注ぎます。
門脈系の特徴と機能
門脈系の最大の特徴は、消化管由来の毛細血管と肝臓の類洞という二つの毛細血管床の間を連絡する独特の血管系を形成することです(Eipel et al., 2010)。これにより、消化管で吸収された栄養素(特にグルコースやアミノ酸)は肝臓による初回通過効果(first-pass effect)を受け、代謝・貯蔵されます。また、腸管吸収された薬物も肝臓で代謝を受けるため、薬物動態学的にも重要な意義を持ちます。
血流供給と酸素飽和度
門脈は肝臓に流入する血液の約75-80%を供給し、残りは肝動脈からの動脈血です(Vollmar and Menger, 2009)。門脈血の酸素飽和度は約70-75%と静脈血としては比較的高く、これは消化管や脾臓の代謝が低いためです。肝臓は二重血流支配を受けており、栄養素は主に門脈から、酸素は主に肝動脈から供給されています。
主要な流入血管
門脈の主要な流入血管(根)には以下のものがあります(Skandalakis et al., 2004):
臨床的意義
臨床的意義として、門脈圧亢進症は肝硬変や門脈血栓症などにより門脈内の圧力が異常に上昇する病態です(Garcia-Tsao et al., 2017)。通常の門脈圧は5-10mmHgですが、12mmHg以上に上昇すると食道静脈瘤や脾腫、腹水などの合併症を引き起こします。これは門脈と体循環の静脈系との間に存在する側副血行路(門脈‐体循環吻合)が拡張するためで、主な側副血行路は以下の3ヶ所です: