内陰部静脈 Vena pudenda interna
内陰部静脈は、骨盤部の重要な静脈系の一部であり、主に会陰部および外生殖器からの静脈血を回収します。解剖学的には内陰部動脈に並行して走行し、男性では主に陰茎深静脈(深陰茎背静脈)から始まり、女性では陰核深静脈から始まります(Drake et al., 2020)。この静脈は坐骨直腸窩(ischioanal fossa)の外側壁に沿って背側へと走行し、仙結節靱帯(sacrotuberous ligament)と仙棘靱帯(sacrospinous ligament)の間の小坐骨孔(lesser sciatic foramen)を通過します。その後、梨状筋(piriformis muscle)の下縁に沿って骨盤腔に入り、最終的に内腸骨静脈(internal iliac vein)に注ぐことで骨盤内の静脈血を大循環系へと還流させます(Standring, 2021)。
分枝と吻合
この静脈系には多くの分枝が合流します。球海綿体静脈(bulbospongiosus vein)、尿道海綿体静脈(urethral cavernous vein)、会陰静脈(perineal vein)、下直腸静脈(inferior rectal vein)などが含まれ、これらは外陰部や肛門周囲の静脈血を回収します(Moore et al., 2018)。また、内陰部静脈系は豊富な吻合を形成しており、特に骨盤内静脈叢(内腸骨静脈系)との交通が重要です(Netter, 2019)。
臨床的意義
臨床的意義としては、骨盤底の手術(前立腺切除術、会陰形成術など)時の出血リスク、静脈瘤形成(特に精索静脈瘤との関連)、骨盤内うっ血症候群などの病態に関与します(Malhotra et al., 2022)。また、内陰部静脈系の血栓症は会陰部痛や性機能障害の原因となることがあります。画像診断では造影CTや血管造影で評価され、カテーテル塞栓術などの血管内治療の対象となることもあります(Bookstein et al., 2017)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th edition. Philadelphia: Elsevier.解剖学の基本的な学生向け教科書で、内陰部静脈の基本的走行と機能を明確に解説している。
- Standring, S. (2021) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 42nd edition. London: Elsevier.より詳細な解剖学的記述と臨床的関連性を含む標準的な参考書。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy, 8th edition. Philadelphia: Wolters Kluwer.臨床的視点から解剖学を解説し、内陰部静脈の分枝について詳しく記述している。
- Netter, F.H. (2019) Atlas of Human Anatomy, 7th edition. Philadelphia: Elsevier.内陰部静脈系の走行と吻合を視覚的に示す優れた解剖図譜。
- Malhotra, A., Magnuson, D. and Pabon-Ramos, W.M. (2022) Pelvic Venous Disorders: A Clinical Approach. Cham: Springer.骨盤内静脈疾患に関する最新の知見と治療法を包括的に解説。
- Bookstein, J.J., Sandler, C.M. and Ernst, C.B. (2017) Vascular Imaging and Intervention, 2nd edition. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.血管造影と介入的治療に焦点を当てた専門書で、内陰部静脈系の診断と治療について記述。
J0623 (男性骨盤の静脈、右半分、左方からの図)
J0624 (女性会陰の静脈)
J0625 (女性の骨盤臓器の静脈:左側からの図)
J0626 (女性の骨盤の静脈:右半分、左からやや前方からの図)
J0629 (右大腿の深部静脈:背面図)

J0804 (男性の尿生殖三角筋:下方からの図)

J0808 (男性骨盤:前面からの切断面)
『日本人のからだ(大久保真人 2000)』によると