腎静脈は、腎臓から血液を運び出す重要な血管です。以下に主な特徴をまとめます:
まれに、左腎静脈が大動脈の後方を横断する「大動脈後性左腎静脈」や、静脈が大動脈を輪状に囲む「Circum-aortic venous ring」などの変異が見られます。
日本人のからだ(大久保真人 2000)によると
成人および胎児の腎静脈についての詳細な研究報告は、文献数や事例数が少なく、これは腎静脈が比較的安定した形態を保っていることを示唆しているかもしれません。成人や胎児の腎静脈は、通常左右ともに1本で、複数存在する例は稀であり、その中でも右2本左1本の組み合わせが次に多い(表80)。腎静脈の根は上、下の2本または上、中、下の3本である場合が最も多い(表81)。
腎静脈の大部分は腎門を通過し、腎門外を通る腎静脈またはその根は少ないです。しかし、腎門外を通る根があっても、それは最終的に腎静脈に合流します。腎静脈が直接下大静脈に流入する例は非常にまれです(胎児で128側中1側、阿曾、1931)。腎静脈は下大静脈に至るまでの間、左右ともに内方に水平もしくは内上方に向かいます。下内方に向かう例は観察されていません。腎静脈は最終的に下大静脈に流入しますが、その位置は右側よりも左側が高いか、あるいは同高で、右側が高い例は少ないです。
このように安定している腎静脈にも、極めてまれな特殊例が数例報告されています。
左腎静脈が大動脈の後方を横断して下大静脈に注ぐ例は大動脈後性左腎静脈と呼ばれます(北村ら、1979a)。腎静脈が複数枝に分かれ、そのうちの少なくとも1枝が大動脈の後側を、また少なくとも他の枝が大動脈の前側をそれぞれ横断して下大静脈に注ぐ例(Gi and Akita, 1965)は、静脈が大動脈を輪状に囲むことから、Circum-aortic venous ring (Odger, 1928)と呼ばれます(図101)。これらの例では、腎静脈と近くの静脈、特に奇静脈や腰静脈、上行腰静脈との間に交通枝が存在します。正常な左腎静脈から発した分枝が左上行腰静脈に吻合し、これが腰静脈を通じて下大静脈に連なるため、結果として間接的にCircum-aortic venous ring (Odger, 1928)を形成した例(吉岡,1935)もあります。これらはいずれも発生学的に、腹大動脈の周囲に腎臓の高さで形成されるいわゆるRenal collar (Huntington and McClure, 1920)の部分的残存であると考えられています。後腎静脈Posterior renal veinについてはOkamoto (1990)の詳細な報告があります。
表80 成人と胎児における腎静脈の数とその例数
成人 | 胎児 | ||
---|---|---|---|
飯島(1925) | 山村(1928) | 阿曾(1931) | |
左右ともに1条 | 17 | 34 | 50 |
左右ともに2条 | 0 | 0 | 1 |
右2条左1条 | 12 | 6 | 7 |
右3条左1条 | 1 | 0 | 3 |
右4条左1条 | 0 | 0 | 3 |