上腕静脈 Venae brachiales

J0615 (右の腋窩の静脈:前面図)
定義と解剖学的構造
上腕静脈は、上肢の主要な深部静脈であり、前腕から上腕を経由して心臓へ血液を還流させる重要な血管系です(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。
- **起始:**肘窩において、橈骨静脈(venae radiales)と尺骨静脈(venae ulnares)が合流することにより形成されます(Gray, 2021)。
- **走行:**通常2本存在し、上腕動脈(arteria brachialis)の両側を伴走静脈(venae comitantes)として並行して上行します(Standring, 2020)。
- **連結:**2本の上腕静脈は、互いに横走枝(anastomosing branches)で連結しており、血液の還流経路を補完しています(Moore et al., 2018)。
- **終止:**腋窩下縁において合流し、腋窩静脈(vena axillaris)を形成します(Gray, 2021)。
解剖学的関係
- 上腕動脈と正中神経(nervus medianus)に近接して走行します(Standring, 2020)。
- 上腕筋膜(fascia brachii)の深層に位置し、表在静脈系(尺側皮静脈、橈側皮静脈)とは交通枝で連絡しています(Moore et al., 2018)。
- 上腕二頭筋(musculus biceps brachii)と上腕筋(musculus brachialis)の間を通過します(Gray, 2021)。
臨床的意義
- **静脈穿刺:**上腕静脈は深部に位置するため、通常の静脈穿刺や採血には使用されませんが、中心静脈カテーテル挿入時に考慮される場合があります(Kusminsky, 2007)。
- **深部静脈血栓症(DVT):**上腕静脈は深部静脈血栓症の発生部位となることがあり、特に鎖骨下静脈カテーテル留置後や上肢の過度な運動後(Paget-Schroetter症候群)に注意が必要です(Illig et al., 2016)。
- **動静脈瘻:**血液透析患者において、上腕動脈と上腕静脈の間に動静脈瘻を作成することがあります(Vascular Access Society, 2019)。
- **外傷:**上腕の穿通性外傷や骨折時に、上腕動脈とともに損傷されることがあり、コンパートメント症候群のリスクがあります(Dy et al., 2012)。
- **画像診断:**超音波検査やCT静脈造影により、上腕静脈の血栓や狭窄を評価することができます(Di Nisio et al., 2010)。
生理学的機能