手背静脈網 Rete venosum dorsale manus; Dorsal venous network of hand

J0613 (右手甲の表在静脈)
解剖学的構造
手背静脈網は、手の背側(手背面)に位置する静脈の複雑なネットワークで、上肢の表在静脈系において重要な役割を果たしています(Moore et al., 2018)。この静脈網は、手指からの血液を集め、前腕の主要な表在静脈へと血液を送る中継点として機能します。
基本構造:
- 第2指から第5指の対向縁(互いに向き合う側)を走行する背側指静脈が手背で合流し、3本の**背側中手静脈(dorsal metacarpal veins)**を形成します(Standring, 2020)
- これらの背側中手静脈が相互に吻合し合うことで、手背静脈網(静脈叢)を構成します
- 母指(親指)と第2指の橈側縁からの背側指静脈は、手背の橈側(親指側)で合流し、前腕へ向かって上行する**橈側皮静脈(cephalic vein)**の起始部を形成します
- 第5指(小指)の尺側縁からの背側指静脈は、手背の尺側(小指側)で合流し、**尺側皮静脈(basilic vein)**の起始部を形成します
- 手背静脈網と手掌の深静脈系との間には、中手骨間を貫通する**貫通静脈(perforating veins)**が存在し、両者を連絡しています(Del Sol et al., 1988)
形態学的変異:
日本人を対象とした解剖学的研究により、手背静脈網には以下のような形態学的変異が存在することが明らかになっています(大久保, 2000; Yammine & Erić, 2017):
- **静脈網型(network pattern):**複雑に吻合した網目状の静脈網を形成するタイプ
- **静脈弓型(venous arch pattern):**中手骨遠位部付近で弓状の静脈を形成するタイプ(最も一般的な形態で、約40-60%に観察される)
- **斜静脈型(oblique pattern):**背側中手静脈が斜めに走行し、橈側皮静脈に直接開口するタイプ
- **上行静脈型(ascending pattern):**背側中手静脈が縦走し、橈側皮静脈または尺側皮静脈に個別に開口するタイプ
これらの形態変異は個人差が大きく、左右差も認められることがあります。静脈弓型が最も頻繁に観察される形態ですが、混合型や非定型的な配置も少なくありません(Kiray et al., 2013)。
臨床的意義
1. 静脈穿刺・静脈留置針の挿入部位: