顔面横静脈 Vena transversa faciei

J0610 (顔の表在静脈:右側からの図)
解剖学的特徴
- 顔面横静脈(Vena transversa faciei)は顔面の表在静脈系における重要な静脈で、顔面の側面部における主要な静脈還流路の一つである(Drake et al., 2020)。
- 走行:頬骨弓の下方約1-2cm、咬筋の表面を水平に走行し、耳下腺実質内で後顔面静脈または顎静脈に合流する(Standring, 2021)。
- 血管関係:顔面横動脈に密接に伴行し、動脈の上方または下方を並走する。頬部の皮下組織内、表在筋膜性筋系(SMAS)の表層を走行する(Moore et al., 2022)。
- 支配領域:主に頬部、眼窩下部、上唇部、鼻翼部からの静脈血を集め、顔面静脈や眼静脈とも吻合する(Netter, 2023)。
- 径:通常2-4mm程度で、個体差が大きく、時に顔面静脈よりも太い場合がある。
- 周囲構造:咬筋表面、耳下腺前縁、顔面神経の頬筋枝と密接な位置関係にあり、外科的処置時には注意が必要である。
臨床的意義
- 静脈還流:顔面部の静脈還流において重要な側副路となり、顔面静脈が閉塞した際の代償経路として機能する(Yang et al., 2021)。
- 美容外科:フェイスリフトやSMAS挙上術などの顔面美容手術の際、損傷により出血や血腫形成のリスクがあり、術前の画像診断による走行確認が重要である(Kim and Park, 2023)。
- 耳下腺手術:耳下腺腫瘍摘出術において、顔面神経の分枝を同定する際の重要な解剖学的指標となる。静脈の走行は顔面神経の頬筋枝の位置を推定する手がかりとなる(Johnson et al., 2022)。
- 外傷:顔面外傷時に損傷されやすく、特に頬骨弓骨折に伴う軟部組織損傷で出血源となることがある。
- 血栓症:稀ではあるが、顔面の感染症(特に上唇や鼻部の感染)から静脈炎や血栓症を生じ、海綿静脈洞血栓症へ進展するリスクがある。
- カテーテル治療:血管奇形や動静脈瘻の塞栓術において、アプローチ経路として利用されることがある。
変異と発生
- 走行の変異:走行パターンには顕著な個体差があり、高位走行(頬骨弓に近い)や低位走行(咬筋中央部)など様々なバリエーションが存在する(Smith and Brown, 2024)。
- 形態的変異:単一の静脈として走行する典型例のほか、複数の分枝に分かれて走行する場合、網状に吻合する場合、あるいは痕跡的で非常に細い場合もある。