椎骨静脈 Vena vertebralis
椎骨静脈は、頭頚部の静脈還流において重要な役割を果たす主要な静脈です (Gray and Standring, 2024)。以下、その解剖学的特徴と臨床的意義について詳しく説明します。
解剖学的特徴
- 起始部:
- 後頭三角(小後頭直筋と上頭斜筋の間)に位置する後頭下静脈叢から始まります (Moore et al., 2023)。
- 硬膜静脈洞や脳底静脈叢とも交通があります。
- 走行経路:
- 第1頚椎から第6頚椎までの横突孔を通過します (Netter, 2023)。
- 椎骨動脈に随伴し、その周囲に静脈叢(椎骨静脈叢)を形成します。
- 頚椎横突起の前結節と後結節の間を下行します。
- 終末部:
- 第6頚椎レベルで横突孔を出ます (Drake et al., 2024)。
- 腕頭静脈の後面に開口します。
- 左右の椎骨静脈は非対称なことが多く、通常、左側が優位です。
重要な分枝と吻合
- 副椎骨静脈:
- 第7頚椎横突孔を通過する変異枝です (Tubbs et al., 2023)。
- 主幹の椎骨静脈と並行して走行します。
- 関連する静脈系:
- 前椎骨静脈:上行頚静脈に並走し、椎骨静脈終末部に合流します。
- 深頚静脈:後頚部の固有背筋群の間を下行し、豊富な筋枝を受けます。
- 椎骨静脈叢:脊柱管内の内椎骨静脈叢と交通があります (Sinnatamby, 2023)。
臨床的意義
椎骨静脈系は、以下の点で臨床的に重要です:
- 頭蓋内-頭蓋外の静脈吻合路として機能し、頭蓋内圧の調節に関与します (Snell, 2023)。
- 静脈弁を持たないため、姿勢変化に応じた静脈還流の調節が可能です。
- 脊髄硬膜動静脈瘻の血行動態に影響を及ぼすことがあります。
- 頚部手術の際には重要な出血源となる可能性があり、特別な注意が必要です。
これらの解剖学的特徴と臨床的意義を十分に理解することは、頭頚部の診療において非常に重要です。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2024) Gray's Anatomy for Students, 5th ed. Philadelphia: Elsevier.
- Gray, H. and Standring, S. (2024) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 43rd ed. London: Elsevier.
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2023) Clinically Oriented Anatomy, 9th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer.