椎骨静脈 Vena vertebralis
椎骨静脈は、頭頚部の静脈還流において極めて重要な役割を果たす主要な静脈であり、脳と脊髄の静脈血を腕頭静脈系へと導く重要な血管です(Gray and Standring, 2024)。以下、その詳細な解剖学的特徴と臨床的意義について説明します。

J0611 (顔の深部静脈:右側からの図)

J0618 (縦隔胸部の静脈、腹面図)
解剖学的特徴
起始部と頭蓋内連絡
- 椎骨静脈は、後頭三角の深層、小後頭直筋と上頭斜筋の間に位置する後頭下静脈叢(suboccipital venous plexus)から始まります(Moore et al., 2023)。
- この後頭下静脈叢は、大後頭孔を通じて頭蓋内の構造と豊富な吻合を形成します:
- 後頭洞(occipital sinus)やS状静脈洞(sigmoid sinus)などの硬膜静脈洞と交通します。
- 脳底静脈叢(basilar venous plexus)とも連絡し、斜台周囲の静脈系とつながります。
- 椎骨静脈孔(vertebral venous foramen)を通じて環椎後弓と後頭骨の間で頭蓋内外の静脈が交通します。
- これらの連絡により、椎骨静脈系は頭蓋内圧調節における副次的な還流路として機能します(Drake et al., 2024)。
頚部での走行経路
- 椎骨静脈は、第1頚椎(環椎)から第6頚椎までの横突孔(foramen transversarium)を通過して下行します(Netter, 2023)。
- 椎骨動脈に随伴し、その周囲に椎骨静脈叢(vertebral venous plexus)を形成します:
- この静脈叢は、椎骨動脈の前方と後方に位置する前椎骨静脈叢と後椎骨静脈叢から構成されます。
- 各頚椎レベルで分節的な枝を受け、頚部筋群からの静脈血を集めます。
- 横突孔内では、椎骨動脈の前外側に位置することが多いですが、解剖学的変異があります。
- 頚椎横突起の前結節と後結節の間を下行し、各レベルで頚神経の前枝と後枝の間を通過します。
- 走行中、以下の構造と重要な解剖学的関係を持ちます:
- 前方:椎体、椎間板、頚長筋(longus colli muscle)
- 後方:椎弓根、椎弓、固有背筋群
- 内側:椎骨動脈、交感神経幹
- 外側:頚神経根、斜角筋群
終末部と合流
- 椎骨静脈は、第6頚椎レベルで横突孔を出て頚部の筋膜間隙に入ります(Drake et al., 2024)。
- その後、前斜角筋の後方を下行し、鎖骨下動脈の後方を通過します。
- 最終的に腕頭静脈(brachiocephalic vein)の後面、通常は内頚静脈と鎖骨下静脈の合流部付近に開口します。
- 左右の椎骨静脈には明らかな非対称性が認められます:
- 通常、左椎骨静脈が右椎骨静脈よりも太く、優位な還流路となっています。
- この非対称性は、左腕頭静脈が右腕頭静脈よりも長いことに対応しています。
- 約15-20%の症例で、片側の椎骨静脈が著しく低形成または欠損しています(Tubbs et al., 2023)。
重要な分枝と静脈系の吻合
副椎骨静脈(Accessory vertebral vein)