腕頭静脈 Vena brachiocephalica

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J0618 (縦隔胸部の静脈、腹面図)

解剖学的構造と形成

腕頭静脈(無名静脈とも呼ばれる)は、上大静脈を形成する主要な静脈幹であり、頭頚部および上肢からの静脈血を心臓へ還流させる重要な血管です。左右一対存在し、それぞれが胸鎖関節の後方で内頚静脈と鎖骨下静脈の合流により形成されます(Standring, 2020)。

流入する静脈

腕頭静脈には以下の重要な静脈が流入します(Standring, 2020):

解剖学的変異:大動脈後性左腕頭静脈

左腕頭静脈の走行には稀な解剖学的変異が存在し、その中で最も重要なのが**大動脈後性左腕頭静脈(retroaortic or postaortic left brachiocephalic vein)**です(Adachi, 1933; 北村ら, 1981)。この変異では、左腕頭静脈が通常の経路である大動脈弓の前方ではなく、上行大動脈または大動脈弓の後方を横切って右腕頭静脈に合流します。

発生学的には、胎生期の静脈系の異常な退縮または遺残によって生じると考えられています。正常な発生過程では、左右の前主静脈が腕頭静脈となりますが、この過程での異常が大動脈後性左腕頭静脈を形成します(Yoshida et al., 1984)。

臨床的意義