腹腔動脈

腹腔動脈は、横隔膜直下の腹大動脈から分岐し、左胃動脈、総肝動脈、脾動脈の共通幹となります。また、その位置は第12胸椎の高さにあります。

日本人のからだ(加藤征 2000)によると

腹腔動脈の分岐には多数の変異型が存在し、これは理解を難しくします。しかし、この血管系は解剖学的にも臨床的にも重要です。

Tandler (1904)は、5 mm胎児での中腸上部の4-5本の原始動脈の遺残と縦走吻合の観察から、さまざまな分岐型が生じると主張しました。腹腔動脈の分類においては、Adachi (1928 b)と森田(1935)の分類が知られています(図57, 58)。Adachi (1928 b)は252例の解剖所見からVI型28群に分類しましたが、これに合致しない例を見つけた森田(1935)は、さまざまな類型を論理的あるいは幾何学的に推測できるとし、5型15亜型に分類しました。その後、この領域の分岐形態の変異が多数報告されていますが、大部分はTandler (1904)、森田(1935)の仮説に準拠しています。それでも、東・曽根(1986)や西口ら(1988)は原始分節動脈系の残存を考慮する必要性を強調しています。堀口ら(1988 b)は、存在しない動脈の経路に対して、末梢での吻合を通じて他の経路の動脈が補償すると指摘しています。多くの単例報告では、Adachi (1928 b)の分類にはなく、森田(1935)の分類に合致するものが多く報告されています。

腹腔動脈と上腸開膜動脈の様々な異常に関する報告は非常に多いですが、これらの分岐の変異をここで詳しく述べることは不可能です。そこで、Adachi (1928 b)の分類による腹腔動脈分岐型の出現率に関する調査結果の一部を示し(表36)、文献を紹介します(塚本,1929 ; 森田,1936 ; 今越, 1949 ; 権藤,1949 ; 石井, 1953 ; 風間ら,1956 ; 堂面ら,1960 ; 大内・加藤,1961 ; 山田ら,1963 ; 山本ら,1975 ; 勝目ら,1978, 1979 ; 佐藤ら,1978, 1984 a ; 北村ら,1979 b ; 北村ら,1980 ; 西口ら,1980 ; 大塚ら,1981 ; Suenaga et al., 1982 ; 林ら,1982, 1983 ; 山木ら,1983, 1984 ; 東野ら,1985 ; 東・曽根,1985, 1986, 1987 ; 岩崎ら,1986 ; 竹内, 1986 ;田沼ら,1986 ; Nakashima, 1986 ; 加藤,1987 ; 正村ら,1991).

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図57 腹腔動脈の分岐型(1)(森田, 1935)

図57 腹腔動脈の分岐型(1)

腹腔動脈型:

腹腔腸間膜動脈型: