肩甲下動脈

肩甲下動脈は以下のような特徴を持つ重要な動脈です:

肩甲下動脈の定義や分類には議論の余地があり、その多様性を理解することが重要です。

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J0463 (右腋窩の筋膜:尾側図)

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J0574 (右腋窩の動脈、正面図)

日本人のからだ(児玉公道 2000)によると

肩甲下動脈は、腋窩動脈の最大の枝で、肩甲下筋の下縁の高さで分岐します。ここから、胸背動脈と肩甲回旋動脈の2つにすぐに分かれます(①胸背動脈、②肩甲回旋動脈)。

肩甲下動脈は一般的に、腋窩動脈の分枝で、腋窩の後壁に到達する動脈の一つです。肩甲骨外側縁で肩甲下筋の前面を通り、この筋に分布する他に、胸背動脈と肩甲回旋動脈を分枝します。しかし、肩甲下動脈とされる動脈の起始・走行は、非常に多様で、分枝もこれほど単純ではありません。これは、肩甲下動脈の定義が明確でないということです。そのため、実際の姿を調査し、学名の妥当性を含めて再検討し、定義を明確にする必要があります。

77.1%の例では、肩甲下動脈は腋窩動脈から分岐し、正中神経の内外2根の間を貫いて深層に達します。しかし、多くの教科書では、腕神経叢より浅層で起始する場合も同じ肩甲下動脈としています。これは、肩甲下動脈の分枝である肩甲回旋動脈と胸背動脈を重視し、これらの枝を分枝する動脈を肩甲下動脈として扱うためです。形態学的には、腕神経叢の浅層と深層は明確に区別すべきであり、動脈の由来も異なると考えられます。また、分枝についても、上記2枝だけでなく、後上腕回旋動脈や前上腕回旋動脈と共同幹を形成するものも少なくありません。分岐形態も1本にまとまっているとは限らず、多様な形を示すため、基準にはなりません。また、本動脈から深上腕動脈や上尺側副動脈を分岐するとされる例は、実際には別項で述べる浅上腕動脈系が存在するために、一見そのような分岐形式をとります。しかし、この所見は本来の腋窩一上腕動脈が浅上腕動脈を分岐後に急速に退縮痕跡化したものと見るのが正しいと考えられます。以上の理由から、起始は腋窩動脈が腕神経叢の腹側層を貫いた後に分岐するものが真正の肩甲下動脈であると定義したいと思います。

分岐後の経過では、橈骨神経との関係が問題となります(図50表25)。橈骨神経の外側を通って肩甲下筋前面に達する例が最も多く、484例中270例(55.8%)に見られました。橈骨神経を貫く例では、内側神経束から橈骨神経に合流する神経と後神経束の間を通って深層に向かう例や、橈骨神経になる上・中神経幹と下神経幹の間を貫いて深層に向かう場合があり、13例(2.7%)に見られました。橈骨神経の内側を通る例では、起始が深層に達したところで分岐する例が90例で、他の111例は浅肩甲下動脈や足立のC型(Adachi, 1928 a)でした。このことから、典型的な肩甲下動脈での橈骨神経との関係は、外側・内側の比は270対90で75%と25%になり、外側を走行する例が圧倒的に多いことがわかります。全体を概観すると、肩甲下動脈は近位から、橈骨神経に対して外側型から橈骨神経を貫く型、そして内側型へと変異可能であることを示しています。

教科書的には、肩甲下動脈から肩甲回旋動脈と胸背動脈が分枝します。前者は内側腋窩隙を通って肩甲骨の背側に出て隷下筋に分布します。後者は肩甲骨外側縁に沿って走り、広背筋や前鋸筋に分布します。ここでは、この2動脈以外の枝の分岐様式が問題となります。最も頻度の高いものは、後上腕回旋動脈が共同幹を形成するもので、前上腕回旋動脈も併存するものもあります。一方、胸背動脈や肩甲回旋動脈が、浅層系、つまり外側胸動脈から分岐する浅肩甲下動脈系から代償される場合、典型的な肩甲下動脈は形成されず、肩甲下筋枝と後上腕回旋動脈や前上腕回旋動脈に限定される場合があります。しかし、肩甲下筋枝と後上腕回旋動脈しかない場合でも、これを非典型的な肩甲下動脈と見なした方が、肩甲下動脈の本質を理解する上でより適切であると考えます。腋窩動脈が腕神経叢腹側層を貫いて深層に達したところでは、足立のC型(Adachi, 1928 a)を除いて、必ず何らかの枝(最小で肩甲下筋枝)を分岐するので、この枝が肩甲下動脈の前駆動脈と見なす方が適切でしょう。