心筋層 Myocardium
心筋層は、心臓壁の中層を構成する最も厚い層であり、心臓のポンプ機能を担う本質的な構造です。心筋線維(心筋細胞)から構成され、その配列と機能特性によって心臓の収縮と弛緩を可能にしています(Gray et al., 2020; Moore et al., 2018)。
解剖学的構造
心筋層の基本構造
- 心臓壁は3層構造(心内膜、心筋層、心外膜)からなり、心筋層はその中間層として最も厚い層を形成します(Gray et al., 2020)。
- 心筋層の厚さは部位によって大きく異なり、左心室壁が最も厚く(約8-12mm)、右心室壁(約3-5mm)、心房壁(約2-3mm)の順に薄くなります(Moore et al., 2018)。
- 心筋線維は、房室口を取り巻く線維輪(fibrous ring)から起始し、複雑な螺旋状の配列をとっています(Torrent-Guasp et al., 2001)。
心筋線維の配列パターン
- 心室の心筋層は3層構造を示し、外層は螺旋状に走行し、中間層は輪状に配列し、内層は再び螺旋状に走行します(Torrent-Guasp et al., 2001)。
- この複雑な配列により、心室収縮時には捻じれ運動(torsion)が生じ、効率的な血液拍出が可能となります(Sengupta et al., 2008)。
- 心房の心筋層は比較的単純な配列を示し、主に表層と深層の2層構造をとります(Gray et al., 2020)。
心筋細胞の特徴
- 心筋細胞は横紋筋の一種ですが、骨格筋とは異なり、介在板(intercalated disc)を介して細胞同士が連結しています(Pinto et al., 2016)。
- 介在板にはギャップ結合が存在し、電気的興奮が細胞から細胞へ迅速に伝播します(Pinto et al., 2016)。
- 心筋細胞は豊富なミトコンドリアを含み、高い酸素需要と持続的なエネルギー産生能力を有しています(Opie & Hasenfuss, 2019)。
線維骨格(cardiac skeleton)
- 房室口、大動脈口、肺動脈口を取り巻く線維輪は、心臓の線維骨格を構成します(Gray et al., 2020)。
- 線維骨格は心筋線維の付着部位となり、心臓の機械的支持と弁膜の固定に重要な役割を果たします(Moore et al., 2018)。
- また、線維骨格は心房筋と心室筋を電気的に隔絶し、刺激伝導系を介してのみ興奮が伝わるようにしています(Gray et al., 2020)。
機能的特性