後乳頭筋(左心室の)Musculus papillaris posterior (Ventriculus sinister)

J537.png

J0537 (左心室における房室束とその分岐)

J538.png

J0538 (心室の基部と中部の三分の一の間の2つの心臓の収縮期冠状断:長軸に対して垂直に、先端領域からの図)

J539.png

J0539 (心室の基部と中部の三分の一の間の2つの心臓の拡張期冠状断:長軸に対して垂直に、先端領域からの図)

J541.png

J0541 (拡張期の心臓:おおよそ横隔面に平行な図)

J542.png

J0542 (設置された二尖弁(僧帽弁):切断された図)

J546.png

J0546 (拡大した心臓の左室(左心室):腹部の左側からの図)

解剖学的特徴

位置と構造

後乳頭筋は左心室の後下壁から突出する円錐状の筋肉隆起で、左心室の内腔に向かって伸びています(Perloff & Roberts, 1972)。前乳頭筋と比較して、後乳頭筋は通常単一の構造として存在し、より細長い形態を示します(Victor & Nayak, 1995)。

血液供給

後乳頭筋は主に右冠動脈の後下行枝(posterior descending artery)から血液供給を受けます(Voci et al., 1995)。一部の症例では左回旋枝からも血液供給を受けることがあります。この単一血管支配により、前乳頭筋(左前下行枝と左回旋枝の両方から血液供給を受ける)と比較して虚血に対してより脆弱です(Burch et al., 1968)。

腱索との接続

後乳頭筋の先端部からは複数の腱索(chordae tendineae)が伸びており、これらは僧帽弁の後尖および一部の前尖に付着しています(Lam et al., 1970)。腱索は一次腱索、二次腱索、三次腱索に分類され、それぞれ弁尖の辺縁部、粗面、基部に付着します(Lam et al., 1970)。

機能と生理学

僧帽弁の機能維持

心室収縮期において、後乳頭筋は収縮することで腱索に適切な張力を与え、僧帽弁尖が左心房側へ逸脱(prolapse)することを防ぎます(Rushmer et al., 1956)。これにより僧帽弁の完全な閉鎖が保たれ、血液の逆流(僧帽弁逆流)を防止します。

左心室の収縮機能への寄与

乳頭筋は単に弁の支持構造ではなく、左心室壁の一部として心室全体の収縮機能にも寄与しています(Lomholt et al., 2016)。乳頭筋の収縮は心室壁の収縮と協調して行われます。

臨床的意義

虚血性心疾患と乳頭筋機能不全

後乳頭筋は単一血管支配のため、下壁心筋梗塞において虚血や梗塞を起こしやすい構造です(Burch et al., 1968)。急性心筋梗塞に伴う後乳頭筋機能不全は急性僧帽弁逆流の原因となり、心不全や心原性ショックを引き起こす可能性があります(Tcheng et al., 1992)。

乳頭筋断裂

急性心筋梗塞の合併症として、後乳頭筋の完全または部分断裂が発生することがあります(Wei et al., 1979)。これは重症の急性僧帽弁逆流を引き起こし、緊急手術を要する心臓外科的緊急事態です。典型的には心筋梗塞発症後2〜7日目に発生します(Thompson et al., 1972)。

虚血性僧帽弁逆流