右房室口 Ostium atrioventriculare dextrum

J0533 (背尾側からの最大に収縮した心臓の表面筋層の図)

J0534 (心室の筋組織:固定されない、取り外された標本、少し模式的な背尾図)

J0543 (大きく広がった成人の右心房:右側からの図)

J0544 (胎児(8ヶ月)の心臓の右心房:右方からの図)

J0545 (強く拡大した心臓の右心室:右側と上方からの図)
解剖学的構造
右房室口は、右心房と右心室を連結する開口部であり、心臓の機能的区画間における重要な境界構造です(Gray, 2020)。この開口部は、心臓の線維骨格の一部である右房室線維輪(anulus fibrosus atrioventricularis dexter)によって囲まれています(Netter, 2018)。
構造的特徴:
- 開口部の直径は約30-40mmで、左房室口よりもやや大きい傾向があります(Standring, 2020)。
- 右房室線維輪は、密な膠原線維からなる輪状の線維性結合織で構成されており、三尖弁の弁葉および弁輪の付着部位となります。この線維輪は心房筋と心室筋を電気的に隔離し、房室結節-ヒス束系を介してのみ電気的興奮が伝導されるようにしています(Anderson et al., 2009)。
- 開口部には三尖弁(valva tricuspidalis)が位置し、前尖(cuspis anterior)、後尖(cuspis posterior)、中隔尖(cuspis septalis)の3つの弁尖で構成されています(Moore et al., 2017)。
- 各弁尖は腱索(chordae tendineae)を介して乳頭筋(musculi papillares)に連結されており、収縮期における弁の逸脱を防止しています(Snell, 2019)。
血行動態における役割
右房室口は、体循環から戻ってきた静脈血を右心房から右心室へと導く通路として機能します(Guyton and Hall, 2015)。心周期における動態は以下の通りです:
- **拡張期:**心室の弛緩により心室内圧が低下すると、右房室口が開放し、右心房から右心室への血流(受動的充満)が生じます。心房収縮(atrial kick)により、さらに15-25%の血液が右心室に送り込まれます(Braunwald, 2018)。
- **収縮期:**心室収縮の開始とともに心室内圧が上昇し、三尖弁が閉鎖します。腱索と乳頭筋の作用により、弁尖の心房側への反転(prolapse)が防止され、血液の逆流が阻止されます(Perloff and Marelli, 2012)。
臨床的意義
右房室口および三尖弁の病態は、様々な臨床症状を引き起こします:
- **三尖弁閉鎖不全症(Tricuspid regurgitation):**弁の不完全閉鎖により、収縮期に右心室から右心房への血液の逆流が生じます。原因として、感染性心内膜炎、リウマチ性心疾患、右心室の拡大による弁輪拡大(functional TR)、心筋梗塞後の乳頭筋機能不全などがあります(Topilsky et al., 2019)。頸静脈の拍動性怒張、肝腫大、下腿浮腫などの右心不全症状を呈します(Otto and Bonow, 2020)。
- **三尖弁狭窄症(Tricuspid stenosis):**弁口面積の減少により、右心房から右心室への血流が障害されます。主にリウマチ性心疾患によって引き起こされ、僧帽弁病変を合併することが多いです(Stout and Verrier, 2009)。右心房圧の上昇により、頸静脈怒張、腹水、肝腫大などの症状が出現します。
- **エプスタイン奇形(Ebstein's anomaly):**三尖弁の中隔尖および後尖が右心室内に下方偏位する先天性心疾患です。右心房の著明な拡大(atrialized right ventricle)と機能的右心室の縮小を特徴とし、三尖弁閉鎖不全、チアノーゼ、不整脈(特にWPW症候群の合併)などを呈します(Attenhofer Jost et al., 2012)。
- **心内膜炎:**静脈内薬物使用者では、三尖弁が最も頻繁に細菌性心内膜炎の標的となります。黄色ブドウ球菌が最も一般的な起因菌であり、敗血症性肺塞栓を合併することがあります(Habib et al., 2015)。
- **外傷性損傷:**鈍的胸部外傷により、腱索断裂や乳頭筋損傷が生じ、急性三尖弁閉鎖不全を来すことがあります(Vignon et al., 2001)。