甲状腺 Glandula thyroidea
甲状腺は、前頚部の気管前面に位置する内分泌腺であり、喉頭軟骨の高さから第5-6頚椎の高さまでを占めています(Gray and Lewis, 2018)。以下に、解剖学的特徴と臨床的重要性についてまとめます。
1. 解剖学的構造
1.1 位置関係
- 前面:胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、肩甲舌骨筋によって被われています(Moore et al., 2018)。
- これらの筋肉は甲状腺へのアプローチ時に重要な指標となります。
- 外側:総頚動脈鞘、内頚静脈、迷走神経が隣接しています(Standring, 2020)。
- 手術時の損傷リスクが高い構造物として注意が必要です。
- 後面:気管、食道、反回神経と密接な関係にあります(Drake et al., 2019)。
- 特に反回神経損傷は甲状腺手術の主要な合併症の一つです。
1.2 血管支配
- 動脈:上甲状腺動脈(外頚動脈の分枝)と下甲状腺動脈(甲状頚動脈の分枝)から栄養を受けています(Standring, 2020)。
- まれに最下甲状腺動脈(胸部大動脈弓または腕頭動脈からの分枝)も存在します。
- 静脈:上・中・下甲状腺静脈を介して内頚静脈へと還流します(Netter, 2019)。
- これらの静脈は手術時の出血源となりやすいため、慎重な処理が必要です。
1.3 神経支配
- 交感神経:上頚神経節からの支配を受けます(Williams and Wilkins, 2021)。
- 副交感神経:迷走神経からの支配を受けます。
2. 臨床的重要性
2.1 形態と大きさ
- 形態学的変異:
- H字形(蝶型)が最も一般的(70%)(Drake et al., 2019)
- 馬蹄形(16%)、凹字形(14%)が続きます。
- 約80%の症例で錐体葉(発生学的遺残)が認められます。
- サイズと重量:
- 正常成人では、重さ15-20g、左右葉の長さは約4cm、幅は2-2.5cm程度です(Netter, 2019)。
- 性差・年齢・妊娠により、大きさが変動することがあります。
2.2 機能
- 内分泌機能:
- 甲状腺ホルモン(T3、T4):基礎代謝率、体温調節、成長発達に重要な役割を果たします(Williams and Wilkins, 2021)。甲状腺ホルモン(T3、T4):基礎代謝率、体温調節、成長発達に重要な役割を果たします(Williams and Wilkins, 2021)。
- カルシトニン:カルシウム代謝の調節に関与しています(Moore et al., 2018)。カルシトニン:カルシウム代謝の調節に関与しています(Moore et al., 2018)。
2.3 臨床的意義