

J0794 (右の卵巣と卵管がその位置で横に切断:上方から見た図)

J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)
卵巣間膜とは、子宮広間膜の後方に位置する漿膜性の二重のヒダで、卵巣を骨盤腔内に吊り下げる支持構造です(Standring, 2021)。解剖学的には、卵巣間膜は子宮広間膜(broad ligament)の後葉から派生し、卵巣の卵巣門(hilum ovarii)に付着します(Gray and Lewis, 2020; Moore et al., 2018)。この二重の腹膜ヒダの間には、卵巣動静脈、リンパ管、神経が走行しており、卵巣への血管神経供給路として機能します(Netter, 2019)。
卵巣間膜の長さは通常3〜4cm程度で、その厚さは1〜2mm程度です(Moore et al., 2018)。この薄い間膜構造は、上縁が卵巣提索(infundibulopelvic ligament)に、下縁が子宮卵巣靭帯(ovarian ligament)に連続しています(Standring, 2021)。卵巣間膜は卵巣靭帯と卵巣提索とともに卵巣の位置を維持する役割を担っています(Drake et al., 2020)。しかし、卵巣間膜には伸展性があるため、卵巣は骨盤腔内でやや可動性を持ちます(Standring, 2021)。
卵巣間膜内を走行する卵巣動脈は腹大動脈から直接分岐し(L1〜L2レベル)、後腹膜腔を下降して骨盤縁で卵巣提索に入り、最終的に卵巣間膜を通過して卵巣門に到達します(Netter, 2019; Gray and Lewis, 2020)。卵巣静脈は右側では下大静脈に、左側では左腎静脈に注ぎます(Moore et al., 2018)。リンパ排液は主に腰リンパ節(lumbar lymph nodes)へ向かいます(Standring, 2021)。神経支配は卵巣神経叢を介して行われ、交感神経線維と副交感神経線維の両方が含まれています(Berek and Novak, 2019)。
臨床的には、卵巣間膜は婦人科手術の際に重要な解剖学的指標となります(Drake et al., 2020)。例えば、卵巣嚢腫や卵巣腫瘍の摘出術、あるいは卵巣摘出術(oophorectomy)において、卵巣間膜の適切な処理が必要となります(Berek and Novak, 2019)。手術時には卵巣動静脈を含む卵巣間膜の血管茎を確実に結紮または凝固することが重要であり、不適切な処理は術中出血や術後血腫の原因となります(Hoffman et al., 2022)。
卵巣捻転(ovarian torsion)は、卵巣間膜が捻じれることにより卵巣への血流が遮断される緊急疾患です(Chang et al., 2008)。卵巣間膜の長さや伸展性の個人差により、一部の女性では捻転のリスクが高まります(Standring, 2021)。特に卵巣嚢腫などの腫大病変が存在する場合、捻転のリスクは著しく増加します(Berek and Novak, 2019)。捻転が生じると急性腹症を呈し、迅速な外科的介入が必要となります(Hoffman et al., 2022)。
さらに、卵巣間膜内には間膜嚢腫(mesothelial cysts)や子宮内膜症病変(endometriotic lesions)が発生することがあり、これらは骨盤痛や不妊の原因となることがあります(Hoffman et al., 2022; Schorge et al., 2020)。画像診断においては、超音波検査やMRIで卵巣間膜の評価が可能であり、病変の同定や手術計画に有用です(Drake et al., 2020)。