S状結腸間陥凹 Recessus intersigmoideus

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J0726 (S状結腸間陥凹:前下方からの図)

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J0764 (後腹壁にある男性の泌尿器:前方からの図)

解剖学的構造

S状結腸間陥凹(intersigmoid recess)は、S状結腸間膜が後腹壁に付着する部位に形成される腹膜の陥凹で、逆V字型または漏斗状の形態を呈します(Standring, 2021; Meyers, 2017)。この陥凹は左腸骨窩の内側縁に位置し、第3腰椎から第3仙椎レベルの高さで、S状結腸間膜根部の二葉の間に存在します(Drake et al., 2020)。

解剖学的には、左尿管、左精巣動静脈(男性)または左卵巣動静脈(女性)、さらに左結腸動脈の分枝と近接しており(Netter, 2019)、外科的介入時には重要な解剖学的ランドマークとなります。陥凹の深さは個人差が大きく、通常2〜3cm程度ですが、S状結腸の可動性が高い症例では5cm以上に達することもあります(Moore et al., 2018)。陥凹の開口部は通常左下方を向いており、この方向性が内ヘルニアの発生機序と関連しています(Tillaux, 1891; Blaivas and Shocket, 1980)。

臨床的意義

S状結腸間陥凹は、内ヘルニアの好発部位として臨床的に重要です。S状結腸間ヘルニア(intersigmoid hernia)は、全内ヘルニアの約6%を占める比較的稀な病態ですが(Blaivas et al., 1999)、診断の遅れが腸管壊死や穿孔などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります(Martin et al., 2006)。

小腸がこの陥凹に嵌入すると、絞扼性イレウスを呈し、急性腹症として発症します(Takeyama et al., 2005; Ghahremani, 1983)。特に、高齢者、るい痩患者、腹部手術歴のある患者、または急激な体重減少を経験した患者でリスクが高まることが報告されています(Newsom and Ellis, 1986)。CT検査では、S状結腸間膜の根部に集束する小腸ループと、渦巻き状を呈する腸間膜血管(whirl sign)が特徴的所見となります(Doishita et al., 2014)。

腹腔鏡下手術においては、S状結腸間陥凹は左尿管を同定する際の重要な解剖学的指標となります(Coffin et al., 2015)。特に、左結腸切除術や直腸切除術では、S状結腸間膜を展開する過程で尿管損傷を避けるために、この陥凹の正確な認識が不可欠です(Brannigan et al., 2012)。また、婦人科領域では、卵巣嚢腫摘出術や子宮内膜症手術時にも留意すべき解剖学的構造です(Kavallaris et al., 2011)。

発生学

発生学的には、S状結腸間陥凹の形成は胎児期の腸回転(intestinal rotation)と後腹膜への二次的固定化(secondary retroperitonealization)の過程と密接に関連しています(Schoenwolf et al., 2020; Sadler, 2019)。胎生6〜10週において、中腸は270度の回転を完了し、その後下行結腸とS状結腸は左後腹壁に固定されますが、S状結腸間膜は可動性を保持します(Moore and Persaud, 2020)。

この固定化の過程で、腹膜の折り返しによってS状結腸間陥凹が形成されます(Larsen, 2001)。S状結腸の可動性が高い個体では、間膜が長く陥凹も深くなる傾向があり、これは人種や個体差に関連することが知られています(Sato, 2007)。特に、アジア人ではS状結腸が長く可動性が高い傾向があり、S状結腸軸捻転症の発生率が高いことと関連している可能性が示唆されています(Ballantyne et al., 1982)。

参考文献