小網 Omentum minus

J0721 (小網:前方からの図)

J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

J0924 (胸腔および腹腔にある左迷走神経:左側からの図)
小網(Omentum minus)は、肝門と胃小弯および十二指腸上部の間に伸展する二葉構造の薄い腹膜であり、胃の小弯から十二指腸の近位部(幽門より約2cm遠位)と肝臓(肝門縁と静脈管索のある肝裂溝)に付着します。発生学的には、前胃間膜(ventral mesogastrium)から発生した構造物です。
解剖学的区分
小網は解剖学的に以下の二部分に区分されます:
- 肝十二指腸間膜(Ligamentum hepatoduodenale):小網の右側端部で、小網の自由縁と網嚢孔(Foramen epiploicum)の前縁を形成します。この部分には「門脈三管構造(portal triad)」と呼ばれる重要な構造物が通過し、胆管系(総胆管と肝管)、門脈、固有肝動脈、および肝臓に向かうリンパ管と神経を含みます。
- 肝胃間膜(Ligamentum hepatogastricum):小網の左側の広い部分で、胃小弯と連結し、網嚢(Lesser sac)の前壁を形成します。この部分には左右の胃動脈や迷走神経肝枝・幽門枝などが走行しています。
その他の解剖学的特徴
- 小網の右側端は、時に十二指腸の前面を越えて下行性のヒダを形成し、右結腸曲まで達することがあり、この変異部分は肝結腸間膜(Ligamentum hepatocolicum)と呼ばれます。
- 小網の左端部では肝臓との付着がなくなり、代わりに胃と横隔膜を連結する部分(小網の横隔胃部、Pars phrenicoventrica)を形成します。
臨床的意義
- 小網は腹部手術における重要な解剖学的ランドマークであり、特に上腹部手術において胃や肝臓へのアプローチの際に頻繁に操作されます。
- 肝十二指腸間膜内の血管構造は、肝移植手術や肝切除術において慎重に扱われる必要があります。
- 小網は網嚢へのアクセスルートとなり、膵臓や脾臓へのアプローチにも関わります。
- 腹部外傷や炎症性疾患では、小網内に体液や血液が貯留することがあります(小網腔内貯留)。
参考文献
- Brunicardi, F.C., Andersen, D.K., Billiar, T.R., Dunn, D.L., Hunter, J.G., Matthews, J.B. and Pollock, R.E., 2019. Schwartz's Principles of Surgery. 11th ed. New York: McGraw-Hill Education. → 外科医学の包括的な参考書で、消化器系の解剖学と外科的アプローチについて詳細に解説している。
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M., 2019. Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier. → 医学生向けの解剖学書で、小網を含む腹部解剖学を図解とともに分かりやすく説明している。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R., 2018. Clinically Oriented Anatomy. 8th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer. → 臨床解剖学の標準的教科書で、臨床的観点から小網の構造と機能を解説している。
- Nagpal, A. and Nagpal, S.J.S., 2022. Clinical Applications of Anatomical Variations in Hepatobiliary Surgery. Journal of Hepatobiliary Surgery, 29(2), pp.78-96. → 肝胆道系手術における解剖学的変異の臨床応用について論じた研究論文。