尿道海綿体 Corpus spongiosum penis

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J0783 (開かれた陰嚢:前方からの図)

解剖学的構造

位置と形態: 尿道海綿体(corpus spongiosum penis)は陰茎の尿道面側(腹側)に位置する単一の円柱状構造であり、その内部を尿道が全長にわたって貫通している(Gray et al., 2020; Moore et al., 2018)。この海綿体組織は豊富な静脈叢と結合組織から構成され、勃起時には血液で充満する機構を有している(Standring, 2021)。

形態学的特徴: 尿道海綿体は陰茎海綿体(corpus cavernosum penis)と比較して径が小さく、その近位端は球部(bulb of penis)として著明に肥厚し、尿生殖隔膜に強固に固定されている(Moore et al., 2018)。遠位部では円錐状に拡大して亀頭(glans penis)を形成し、陰茎海綿体の先端を冠状溝(corona glandis)の形態で被覆している(Drake et al., 2019)。

組織学的構造

白膜の特徴: 尿道海綿体を覆う白膜(tunica albuginea)は、陰茎海綿体のそれと比較して顕著に薄く、弾性線維に富んでいる(Standring, 2021)。この組織学的特性により、尿道は勃起時にも開存状態を維持でき、かつ射精時には管腔の拡張が可能となっている(Drake et al., 2019)。

海綿体組織: 組織学的には不規則な静脈洞様の腔が結合組織性の中隔によって区画され、これらの腔は内皮細胞で裏打ちされている。この構造が血液の流入・貯留を可能にし、勃起機能に寄与している(Standring, 2021)。

血管支配

動脈供給: 尿道海綿体への主要な動脈血供給は内陰部動脈(internal pudendal artery)の分枝である球尿道動脈(artery of bulb of penis)および亀頭動脈(dorsal artery of glans)によって行われている(Shafik et al., 2012)。これらの動脈は海綿体組織内で豊富な血管網を形成し、勃起時の血液充満に必須の役割を果たしている(Yucel and Baskin, 2004)。

静脈還流: 静脈血の還流は尿道海綿体静脈(vein of corpus spongiosum)と亀頭背静脈(deep dorsal vein of glans)を介して内陰部静脈(internal pudendal vein)へと流入する経路をたどる(Yucel and Baskin, 2004)。この静脈系の構造が射精後の弛緩過程において重要である(Drake et al., 2019)。

神経支配

体性神経支配: 尿道海綿体は陰部神経(pudendal nerve)から体性神経支配を受けており、特に亀頭部には豊富な感覚神経終末が分布している(Halata and Munger, 1986)。これらの神経終末は性的刺激の受容において極めて重要な役割を担っている(Yucel and Baskin, 2004)。

自律神経支配: 自律神経系では、交感神経系が射精時の平滑筋収縮を制御し、副交感神経系が勃起時の血管拡張に関与している(Yucel and Baskin, 2004)。この二重支配により、勃起と射精という相反する生理現象が協調的に調節されている(Drake et al., 2019)。

臨床的意義

外傷性病変: 尿道海綿体の外傷性断裂、いわゆる陰茎骨折(penile fracture)は、勃起した陰茎に過度の屈曲力が加わることで発生する緊急疾患である(Mundy and Andrich, 2019)。また、骨盤骨折に伴う球部尿道損傷も重要な外傷性病変として認識されている(Latini et al., 2014)。

先天性異常: 尿道下裂(hypospadias)は尿道海綿体の発生異常に起因する代表的な先天性疾患であり、尿道口が陰茎腹側の異所性位置に開口する形態異常である(Yamada et al., 2003)。その発生頻度は出生男児の約300人に1人とされている(Moore et al., 2018)。

炎症性・狭窄性病変: 尿道海綿体内の慢性炎症は線維化を惹起し、尿道狭窄(urethral stricture)の主要な原因となる(Latini et al., 2014)。特に淋菌性尿道炎後の狭窄や外傷後狭窄が臨床的に重要である(Mundy and Andrich, 2019)。

血管性病変: プリアピズム(priapism、持続勃起症)は尿道海綿体を含む陰茎海綿体組織の静脈還流障害により生じる病態であり、虚血性と非虚血性の2型に分類される(Ralph et al., 2010)。また、陰茎弯曲症(Peyronie's disease)においても尿道海綿体の線維化が病態形成に関与している(Ralph et al., 2010)。