壁側板(精巣鞘膜の)Lamina parietalis (Tunicae vaginalis testis)

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J0777 (精巣鞘膜(臓側板)を開いた後の右の精巣と精巣上体:外側からの図)

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J0778 (精巣鞘膜の壁側板を開いた後の右の精巣と精巣上体:内側からの図)

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J0780 (右の精巣と精巣上体:横断面)

解剖学的構造

精巣鞘膜の壁側板は、精巣を包む漿膜性二重膜の外側葉であり、腹膜の突起である腹膜鞘状突起(processus vaginalis peritonei)に由来します(Moore et al., 2018)。胎児期において、精巣が腹腔から陰嚢へ下降する際に、腹膜が精巣とともに引き込まれることで形成されます。出生後、腹膜鞘状突起の近位部は閉鎖し、遠位部が精巣鞘膜として残存します(Standring, 2020)。

壁側板は陰嚢壁の内面、特に精巣挙筋と内精筋膜の深層に密着しています。その内側には臓側板(lamina visceralis)が精巣および精巣上体を直接覆っており、両者の間には潜在的な腔所である鞘膜腔(cavitas vaginalis)が形成されます(Gray and Goss, 2020)。この腔には正常時、数ミリリットルの漿液が含まれ、精巣の滑らかな可動性を確保し、機械的摩擦を軽減しています(Moore et al., 2018)。壁側板と臓側板は精巣の後下方で移行し、この部位を鞘膜洞(sinus epididymidis)と呼びます(Standring, 2020)。

組織学的構造

組織学的には、壁側板は単層扁平上皮である中皮(mesothelium)によって内面が覆われ、その深層には薄い結合組織層が存在します(Ross and Pawlina, 2016)。中皮細胞は微絨毛を有し、漿液の産生と吸収に関与しています(Junqueira and Carneiro, 2013)。結合組織層には膠原線維、弾性線維、少量の血管およびリンパ管が分布し、栄養供給と代謝産物の除去を担っています(Ross and Pawlina, 2016)。この薄い二層構造により、壁側板は柔軟性と適度な強度を兼ね備え、精巣を物理的衝撃から保護するとともに、陰嚢内での精巣の温度調節にも寄与しています(Moore et al., 2018)。

臨床的意義

臨床的に最も重要な病態は陰嚢水腫(hydrocele testis)です。鞘膜腔に過剰な漿液が貯留することで陰嚢が腫大し、透光性試験(transillumination test)陽性を示します(Standring, 2020)。陰嚢水腫は先天性と後天性に分類され、先天性では腹膜鞘状突起の閉鎖不全が原因となり、後天性では炎症、外傷、腫瘍などが誘因となります(Kass and Marcovich, 2008)。

壁側板の炎症である精巣鞘膜炎(periorchitis)は、急性精巣上体炎や精巣炎に続発することが多く、鋭い疼痛、陰嚢の腫脹、発赤を呈します(Trojian et al., 2009)。また、腹膜鞘状突起が開存したままの状態では、鼡径ヘルニア(特に間接型)が発生しやすく、腸管などの腹腔内臓器が鞘膜腔内に脱出する可能性があります(Standring, 2020)。

外科的処置においては、精索静脈瘤手術、鼡径ヘルニア修復術、精巣摘出術などの際に壁側板の解剖学的位置関係を正確に理解することが不可欠です(Skandalakis et al., 2009)。特に、壁側板と臓側板の境界部位、精索との位置関係、血管走行を術前に把握することで、合併症のリスクを低減できます(Wein et al., 2016)。

参考文献