
J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

J0777 (精巣鞘膜(臓側板)を開いた後の右の精巣と精巣上体:外側からの図)

J0778 (精巣鞘膜の壁側板を開いた後の右の精巣と精巣上体:内側からの図)


精巣鞘膜は精巣を包む二層構造の漿膜性被膜であり、壁側板(lamina parietalis)と臓側板(lamina visceralis)から構成される。発生学的には、腹膜の延長である腹膜鞘状突起(processus vaginalis peritonei)が胎生期に精巣とともに陰嚢内へ下降し、その後近位部が閉鎖することで形成される(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。
臓側板は精巣実質および精巣上体の大部分を直接覆う薄い漿膜層であり、精巣白膜(tunica albuginea testis)と密接に結合している。一方、壁側板は陰嚢の内層を裏打ちし、精巣鞘膜腔の外壁を形成する。両層の間には精巣鞘膜腔(cavum tunicae vaginalis testis)と呼ばれる潜在的な空間が存在し、通常は数ミリリットルの漿液を含む。この漿液は精巣の可動性を保ち、陰嚢内での摩擦を軽減する役割を果たしている(Drake et al., 2019; Netter, 2021)。
精巣鞘膜の上縁は精索の高さまで延び、下縁は精巣の下極を包む。臓側板と壁側板は精巣の後縁で移行し、精巣間膜(mesorchium)を形成する。この部位では精巣への血管と神経が進入する(Schünke et al., 2018)。
陰嚢水腫(Hydrocele testis): 精巣鞘膜腔内に過剰な液体が貯留した状態である。新生児では腹膜鞘状突起の閉鎖不全により生じる交通性陰嚢水腫が多く、成人では炎症、外傷、腫瘍などが原因となる非交通性陰嚢水腫が一般的である。大量の液体貯留は陰嚢の腫大を引き起こし、透光性試験(transillumination test)が診断に有用である(Drake et al., 2019; Moore et al., 2018)。
鼠径ヘルニア: 腹膜鞘状突起が完全に閉鎖しない場合、腹腔内容物が精巣鞘膜腔内に脱出し、間接鼠径ヘルニア(indirect inguinal hernia)を形成する。これは小児の鼠径ヘルニアの最も一般的な原因である(Standring, 2020; Netter, 2021)。
精巣捻転(Testicular torsion): 精巣が精索を軸として精巣鞘膜内で異常回転することにより、精巣動脈および静脈の血流が遮断される緊急疾患である。「bell-clapper deformity」と呼ばれる解剖学的異常、すなわち精巣と精巣上体の固定が不十分な場合に発生しやすい。発症後6時間以内の外科的整復が精巣の救済に不可欠である(Drake et al., 2019; Moore et al., 2018)。
外科的考慮事項: 精巣鞘膜は精巣腫瘍の根治的精巣摘除術において重要な解剖学的境界となる。腫瘍が精巣鞘膜を越えて進展している場合、病期分類や予後に影響を与える。また、陰嚢内容物の生検や手術的アプローチにおいて、精巣鞘膜の層構造を理解することは合併症の回避に重要である(Schünke et al., 2018; Standring, 2020)。
精巣鞘膜およびその周辺構造は、東洋医学における経絡理論や臓腑学説と密接に関連している。西洋医学的解剖学的構造と東洋医学的概念を統合的に理解することで、より包括的な臨床アプローチが可能となる。