

J0795 (腟、子宮、右の卵管と卵巣:後方から開いている図)

J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

卵管膨大部(ampulla tubae uterinae)は卵管漏斗部に続く最も太い部分で、長さは約7~8cm、卵管全体の約2/3を占める(Moore et al., 2018)。アーチ状に卵巣の前上方を走行し、卵巣間膜(mesosalpinx)内に位置する(Standring, 2020)。内径は広いが壁は比較的薄く、粘膜には非常に複雑な樹枝状のヒダ(plicae tubariae)が高度に発達しており、内腔のほとんどを占めている(Moore et al., 2018)。
組織学的には、粘膜上皮は単層円柱上皮で構成され、線毛細胞(ciliated cells)と分泌細胞(secretory cells; peg cells)の2種類の細胞が混在する(Ross and Pawlina, 2016)。線毛細胞の協調運動により卵子や初期胚を子宮方向へ運搬し、分泌細胞は卵子と精子の栄養供給に関与する(Mescher, 2018)。粘膜固有層は疎性結合組織からなり、その外側に薄い筋層(内輪走筋層と外縦走筋層)と漿膜が存在する(Ross and Pawlina, 2016)。筋層の蠕動運動も卵子の輸送を補助する(Standring, 2020)。
卵管膨大部は受精が通常行われる主要部位であり、精子と卵子の出会いの場として極めて重要である(Moore et al., 2018)。臨床的には、異所性妊娠(子宮外妊娠)の最も一般的な部位であり、全卵管妊娠の約80%が膨大部で発生する(Cunningham et al., 2018)。これは膨大部の内腔が広く、受精卵が着床しやすい環境にあることに起因する(Hoffman et al., 2016)。
卵管炎や骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease; PID)によって膨大部の粘膜が損傷すると、線毛機能の障害や卵管閉塞が生じ、卵管性不妊症や異所性妊娠のリスクが著しく増加する(Hoffman et al., 2016)。また、卵管采と膨大部の境界部における狭窄や癒着は、体外受精・胚移植(in vitro fertilization and embryo transfer; IVF-ET)などの生殖補助医療(assisted reproductive technology; ART)の適応となることがある(Fritz and Speroff, 2019)。卵管造影検査(hysterosalpingography; HSG)や腹腔鏡検査により膨大部の開存性や粘膜の状態を評価することが不妊症診療において重要である(Fritz and Speroff, 2019)。
卵管膨大部は、東洋医学、特に鍼灸医学および漢方医学において、女性生殖機能と密接に関連する重要な解剖学的構造として位置づけられる。経絡理論では、卵管を含む女性生殖器は主に衝脈(Chong Mai)、任脈(Ren Mai)、帯脈(Dai Mai)の奇経八脈と、肝経(Liver Meridian)、腎経(Kidney Meridian)、脾経(Spleen Meridian)の正経十二経によって支配されると考えられている(Maciocia, 2011)。