卵管膨大部 Ampulla of uterine tube

解剖学的特徴

卵管膨大部は、卵管漏斗部に続く最も太い部分で、長さは7~8cmであり、卵管全体の約2/3を占めます(Moore et al., 2018)。アーチ状に卵巣の前上方を走行し、卵巣周囲の腹膜襞である間膜内に位置しています。膨大部は内径が広いですが、壁は比較的薄く、粘膜には非常に複雑な樹枝状のヒダ(plicae tubariae)が発達しており、内腔のほとんどを占めています(Standring, 2020)。

組織学的構造

組織学的には、粘膜上皮は単層円柱上皮で、線毛細胞と分泌細胞(有突細胞)から構成されています(Ross and Pawlina, 2016)。線毛の協調運動は卵子や胚を子宮方向へ運搬する重要な役割を果たします。粘膜固有層は疎性結合組織で、その外側に薄い筋層(内輪・外縦走筋層)と漿膜があります(Mescher, 2018)。

臨床的意義

臨床的意義として、膨大部は受精が通常行われる場所であり、また卵管妊娠の最も一般的な部位(約80%)でもあります(Cunningham et al., 2018)。卵管炎や骨盤内炎症性疾患(PID)によって膨大部の粘膜が損傷すると、卵管不妊や異所性妊娠のリスクが高まります(Hoffman et al., 2016)。また、卵管采と膨大部の境界部の狭窄は、体外受精・胚移植(IVF-ET)などの生殖補助医療の適応となることがあります(Fritz and Speroff, 2019)。

参考文献

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J0793 (子宮、卵管および卵巣:後方からの図)

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J0795 (腟、子宮、右の卵管と卵巣:後方から開いている図)

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J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

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J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

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J0798 (女性の骨盤臓器:上方からの図)