

J0794 (右の卵巣と卵管がその位置で横に切断:上方から見た図)

J0795 (腟、子宮、右の卵管と卵巣:後方から開いている図)

J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)
卵管漏斗(Infundibulum tubae uterinae)は、卵管の遠位端に位置する漏斗状に広がった構造で、直径約10-15mmを測る(Moore et al., 2018)。その最も特徴的な構造は卵管采(Fimbriae tubae)であり、これは10-20本の不規則な指状突起から成り、最大長は約20-30mmに達する(Standring, 2020)。卵管采の中でも最も長い1本は卵巣采(Fimbria ovarica)と呼ばれ、卵巣表面に直接接触している(Drake et al., 2019)。卵管漏斗の内面は高度に複雑な粘膜ヒダ(plicae tubariae)に覆われ、これらは縦走する一次ヒダと、そこから分岐する二次・三次ヒダから構成される(Netter, 2018)。粘膜上皮は単層円柱上皮で、線毛細胞(ciliated cells)と分泌細胞(secretory cells)の2種類の細胞から成り、線毛細胞の割合は約60-70%を占める(Kupraszewicz and Karaś, 2019)。線毛の長さは約6-10μmで、1秒間に約10-15回の拍動を行い、常に子宮方向への推進力を生み出している(Lyons et al., 2020)。
卵管漏斗は卵管の4つの部分(漏斗部infundibulum、膨大部ampulla、峡部isthmus、子宮部pars uterina)のうち最も外側・遠位に位置し、卵管全長約10-12cmのうち約1-2cmを占める(Drake et al., 2019)。解剖学的には、卵管漏斗は骨盤腔の側壁に位置し、卵巣の外側極(lateral pole)に近接している(Moore et al., 2018)。卵管漏斗の先端には腹腔への開口部である卵管腹腔口(Ostium abdominale tubae uterinae)があり、その直径は約2-3mmである(Standring, 2020)。この開口部は女性生殖器系において唯一、腹腔と直接交通する部位であり、このため骨盤内感染が腹膜炎へと進展する経路となりうる(Ross and Bates, 2022)。卵管漏斗は卵管間膜(mesosalpinx)の自由縁に位置し、この部分で卵巣動脈の卵管枝と卵管静脈叢から血液供給を受ける(Netter, 2018)。神経支配は卵巣神経叢(plexus ovaricus)と骨盤内臓神経叢(plexus hypogastricus inferior)から受け、これらは交感神経と副交感神経の両方を含む(Moore et al., 2018)。
卵管漏斗の主要な生理学的機能は、排卵された卵子の捕捉(ovum pickup)である(Lyons et al., 2020)。排卵時には、卵管采は卵巣表面に密着するように移動し、これは「把持反射(grasping reflex)」と呼ばれる現象である(Kupraszewicz and Karaś, 2019)。この運動は、卵管采の平滑筋層の収縮と、卵管間膜内の血管充血によって実現される(Moore et al., 2018)。排卵直後、卵丘細胞(cumulus cells)に囲まれた卵子は卵管采によって捕捉され、線毛の協調的な拍動運動によって卵管内へと輸送される(Lyons et al., 2020)。この線毛運動は、月経周期の排卵期に最も活発となり、エストロゲンの影響を受けて調節される(Kupraszewicz and Karaś, 2019)。線毛の拍動方向は常に子宮方向であり、1秒間に約1,000回の拍動を繰り返すことで、卵管内に子宮方向への液体の流れを作り出す(Lyons et al., 2020)。卵管漏斗の分泌細胞は、卵子の生存と初期発育に必要な栄養物質を含む卵管液を分泌する(Standring, 2020)。また、卵管漏斗は精子の遡上経路でもあり、受精の場である卵管膨大部への精子の移動を助ける(Drake et al., 2019)。
卵管漏斗の病態は不妊症の重要な原因となる(Hoffman et al., 2020)。骨盤内感染症(Pelvic Inflammatory Disease; PID)の結果として、卵管采の癒着や卵管腹腔口の閉塞が生じると、卵子の捕捉が不可能となり、卵管性不妊の原因となる(Ross and Bates, 2022)。クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染は、特に卵管采の線毛上皮を破壊し、永続的な機能障害を引き起こす(Hoffman et al., 2020)。卵管漏斗部での異所性妊娠(ectopic pregnancy)は、全異所性妊娠の約5-10%を占め、「卵管漏斗部妊娠(infundibular pregnancy)」または「卵管采妊娠(fimbrial pregnancy)」と呼ばれる(Cunningham et al., 2018)。この部位での妊娠は、比較的薄い壁のため早期に破裂しやすく、重篤な腹腔内出血を引き起こすリスクが高い(Cunningham et al., 2018)。子宮内膜症(endometriosis)の病変が卵管漏斗部に発生することもあり、これは卵管采の癒着や機能障害の原因となる(Hoffman et al., 2020)。卵管漏斗は腹腔に開口しているため、経腟的上行性感染が腹膜炎へと進展する経路となりうる(Ross and Bates, 2022)。また、卵管漏斗部の組織は卵管癌(tubal carcinoma)の好発部位の一つであり、特に高悪性度漿液性卵巣癌(high-grade serous ovarian carcinoma)の多くが実際には卵管漏斗部を起源とすることが近年明らかになっている(Hoffman et al., 2020)。診断面では、卵管造影検査(hysterosalpingography)や腹腔鏡検査(laparoscopy)により、卵管漏斗の開存性や癒着の程度を評価することが可能である(Standring, 2020)。治療面では、卵管采形成術(fimbrioplasty)や卵管開口術(salpingostomy)などの顕微鏡下卵管手術が、卵管漏斗部の閉塞や癒着に対して行われることがある(Hoffman et al., 2020)。