

J0772 (膀胱、表面の筋層を取り除き拡張:後上方からの図)

J0786 (左側の骨盤壁を除去した後の男性の骨盤臓器:左方からの図)
膀胱体(corpus vesicae)は、膀胱底(fundus vesicae)と膀胱頚(cervix vesicae)の間に位置する膀胱の主要部分であり、膀胱の大部分を占める(Standring, 2021)。膀胱体は前壁、後壁、左側壁、右側壁、および上壁(膀胱尖部に連続)から構成され、尿の貯蔵と排出において中心的な役割を果たす(Drake et al., 2020)。
膀胱壁は三層構造を持ち、内側から尿路上皮(移行上皮、transitional epithelium)、粘膜固有層および粘膜下層、そして平滑筋層(排尿筋、m. detrusor vesicae)で構成される(Moore et al., 2019)。尿路上皮は4~6層の細胞層からなり、膀胱の拡張時には薄く伸展し、収縮時には厚くなる特性を持つ(Ross and Pawlina, 2021)。この可塑性により、膀胱は容量の変化に柔軟に対応できる。
排尿筋は三層の平滑筋から構成される:内層(縦走筋)、中層(輪走筋)、外層(縦走筋)である(Netter, 2019)。これらの筋層は互いに絡み合いながら網目状の構造を形成し、膀胱の均一な収縮を可能にする(Tanagho and McAninch, 2020)。膀胱体の平滑筋は副交感神経(骨盤神経、S2-S4)の支配を受け、ムスカリン受容体(特にM3受容体)を介して収縮する(Fowler et al., 2008)。
膀胱体への動脈血供給は、主に内腸骨動脈の分枝である上膀胱動脈(a. vesicalis superior)および下膀胱動脈(a. vesicalis inferior)によって行われる(Gray et al., 2020)。静脈還流は膀胱静脈叢(plexus venosus vesicalis)を経て内腸骨静脈に注ぐ(Standring, 2021)。リンパ管は内腸骨リンパ節および外腸骨リンパ節に向かう(Drake et al., 2020)。
神経支配は自律神経系によって制御され、副交感神経は骨盤神経(S2-S4)を介して排尿筋の収縮を促進し、交感神経は下腹神経(T10-L2)を介して膀胱の弛緩と内尿道括約筋の収縮を促進する(de Groat and Yoshimura, 2015)。体性神経(陰部神経、S2-S4)は外尿道括約筋の随意的制御に関与する(Fowler et al., 2008)。
膀胱体の容量は通常200~400 mlであるが、最大で500~600 mlまで拡張可能である(Moore et al., 2019)。膀胱の拡張に伴い、膀胱体は骨盤腔から腹腔内に隆起し、恥骨結合上部で腹壁に接触するようになる(Standring, 2021)。この解剖学的特性により、膀胱充満時には経腹的アプローチによる膀胱穿刺が可能となる(Netter, 2019)。
排尿は複雑な神経反射機構によって制御される。膀胱充満に伴う壁の伸展は、壁内の伸展受容体によって感知され、この情報は骨盤神経を介して仙髄排尿中枢(S2-S4)に伝達される(de Groat and Yoshimura, 2015)。さらに上位中枢(橋排尿中枢)の制御下で、副交感神経の活性化により排尿筋が収縮し、同時に体性神経の抑制により外尿道括約筋が弛緩して排尿が生じる(Fowler et al., 2008)。
膀胱体は膀胱炎の主要な影響部位である。特に細菌性膀胱炎では、大腸菌(Escherichia coli)が最も頻繁な原因菌であり、尿路上皮への細菌付着と炎症反応により、頻尿、排尿痛、残尿感、血尿などの症状を引き起こす(Kumar et al., 2021)。慢性膀胱炎では膀胱壁の線維化や肥厚が生じ、膀胱容量の減少をきたすことがある(Tanagho and McAninch, 2020)。
膀胱癌は膀胱体部、特に後壁と側壁に好発する(Hicks and Barratt, 2022)。約90%は尿路上皮癌(移行上皮癌)であり、喫煙、職業性発癌物質への曝露、慢性炎症などが危険因子となる(Kumar et al., 2021)。早期には無痛性血尿が主症状であり、進行すると頻尿、排尿痛、体重減少などが出現する(Smith et al., 2019)。
神経因性膀胱では、脊髄損傷、糖尿病性神経障害、多発性硬化症などにより排尿筋の収縮障害または過活動が生じる(Fowler et al., 2008)。排尿筋の収縮不全は尿閉、残尿増加、尿路感染症のリスク増加をもたらし、排尿筋の過活動は頻尿、切迫性尿失禁の原因となる(de Groat and Yoshimura, 2015)。
間質性膀胱炎(膀胱痛症候群)は、感染を伴わない慢性的な膀胱痛、頻尿、夜間頻尿を特徴とし、膀胱体の粘膜下層における炎症細胞浸潤、肥満細胞増加、線維化が認められる(Hanno et al., 2011)。重症例では膀胱容量が著しく減少し、ハンナー潰瘍と呼ばれる特徴的な病変が膀胱体に認められることがある(Hanno et al., 2011)。