
J0772 (膀胱、表面の筋層を取り除き拡張:後上方からの図)

J0786 (左側の骨盤壁を除去した後の男性の骨盤臓器:左方からの図)

J0787 (男性の骨盤臓器の正中矢状断:左側からの右半分の図)

J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)
膀胱尖(apex vesicae)は膀胱の最上部に位置し、前上方へ向かって臍の方向を指す尖った部分である(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。膀胱が空虚な状態では恥骨結合の後上方に位置するが、膀胱充満時には前腹壁に接近し、時に恥骨上部を超えて腹腔内に達することもある(Moore et al., 2018)。
胎生期において、膀胱尖は尿膜管(urachus)を介して臍帯および尿膜と連続している(Sadler, 2019)。尿膜管は尿嚢(allantois)の遺残であり、胎児の排泄経路として機能する(Larsen, 2015)。出生後、尿膜管は通常閉鎖して線維性の索状構造となり、正中臍索(median umbilical ligament; ligamentum umbilicale medianum)を形成する。この索は膀胱尖から臍まで前腹壁の腹膜下を走行する(Moore et al., 2018; Standring, 2021)。
膀胱尖は膀胱底部(fundus vesicae)と対側に位置し、両側の膀胱側面(lateral surfaces)と膀胱前面(anterior surface)が集まる点として定義される(Gray, 2020)。周囲には腹膜が覆い、膀胱の上面および後上面は腹膜に覆われているため、膀胱充満時には腹腔臓器と直接接触する可能性がある(Drake et al., 2020)。
組織学的には、膀胱尖は膀胱壁の他の部位と同様の層構造を持つ。最内層は移行上皮(transitional epithelium; urothelium)で構成され、膀胱の伸展に適応して細胞層の厚さが変化する(Ross and Pawlina, 2016; Mescher, 2018)。移行上皮の基底膜の下には固有層(lamina propria)があり、疎性結合組織と血管、神経が含まれる(Young et al., 2014)。
膀胱壁の主要構成要素である平滑筋層(筋層; tunica muscularis)は、膀胱排尿筋(detrusor muscle)として知られ、3層構造を持つ→内側縦走層(inner longitudinal layer)、中間輪状層(middle circular layer)、外側縦走層(outer longitudinal layer)(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。ただし、この層構造は厳密に区分されるものではなく、筋束が複雑に交錯している(Ross and Pawlina, 2016)。膀胱尖部では特に外側縦走層の筋線維が正中臍索へと連続する形で配列している(Moore et al., 2018)。
最外層は外膜(adventitia)または漿膜(serosa)で覆われる。膀胱上面は腹膜に覆われるため漿膜となり、腹膜に覆われない下面および側面は外膜となる(Young et al., 2014)。
膀胱尖への血液供給は主に上膀胱動脈(superior vesical artery)によって行われる。この動脈は内腸骨動脈(internal iliac artery)の前枝から分岐し、膀胱の上部および前面に血液を供給する(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。静脈還流は膀胱静脈叢(vesical venous plexus)を介して内腸骨静脈(internal iliac vein)へ流入する(Moore et al., 2018)。
神経支配は下腹神経叢(inferior hypogastric plexus)からの自律神経線維によって行われる。副交感神経線維(骨盤神経; pelvic splanchnic nerves、S2-S4由来)は排尿筋の収縮を促進し、交感神経線維(下腹神経; hypogastric nerve、T11-L2由来)は膀胱の弛緩と内尿道括約筋の収縮を促進する(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。
尿膜管遺残症(Urachal Remnant Disorders)
尿膜管の閉鎖不全により様々な病態が生じる可能性がある(Bauer and Retik, 2007; Cilento et al., 1998)→①尿膜管嚢胞(urachal cyst):尿膜管の中間部が閉鎖せず嚢胞を形成、②尿膜管瘻(patent urachus):尿膜管全体が開存し膀胱と臍が交通、③尿膜管憩室(urachal diverticulum):膀胱尖部に憩室を形成、④臍尿膜管洞(umbilical-urachal sinus):臍側の開存。これらは感染、膿瘍形成、悪性転化のリスクとなる(Ashley et al., 2006; Galati et al., 2008)。
膀胱癌
膀胱尖部は膀胱癌の発生部位の一つであり、特に移行上皮癌(尿路上皮癌; urothelial carcinoma)の好発部位である(Babjuk et al., 2019)。膀胱癌の約90%は移行上皮癌であり、喫煙や職業性化学物質曝露が主要なリスク因子である(Antoni et al., 2017; Burger et al., 2013)。膀胱尖部の腫瘍は膀胱鏡検査(cystoscopy)による直接視診と生検で診断され、CTやMRIによる画像診断で進展度が評価される(Kirkali et al., 2005)。
外傷