

大腎杯(major calices)は、腎臓の集合系における重要な解剖学的構造物であり、2〜3本の小腎杯(minor calices)から尿を集め、腎盂(renal pelvis)へと導く漏斗状の管腔構造です(Drake et al., 2020; Standring, 2021)。腎杯系は腎実質内の糸球体で濾過された原尿が通過する経路の一部を形成しており、尿の円滑な排出に不可欠な役割を果たしています(Moore et al., 2018)。
大腎杯は腎錐体(renal pyramids)の先端に位置する腎乳頭(renal papillae)からの尿を小腎杯を介して受け取り、腎門部(renal hilum)に向かって集約します(Moore et al., 2018; Standring, 2021)。ヒトの腎臓には通常2〜3個の大腎杯が存在し、上極(superior pole)、中央部(middle region)、下極(inferior pole)の各領域からの尿を集めています(Drake et al., 2020)。
大腎杯の壁は三層構造を呈しており、内側から移行上皮(transitional epithelium)、固有層(lamina propria)、平滑筋層(smooth muscle layer)から構成されています(Standring, 2021; Ross and Pawlina, 2016)。移行上皮は尿の容積変化に対応して伸展可能であり、平滑筋層は蠕動運動(peristalsis)を生成することで尿を腎盂へと能動的に輸送します(Moore et al., 2018)。大腎杯の平滑筋は主に縦走筋線維と輪走筋線維から構成され、約10〜15秒の周期で蠕動波を発生させます(Weiss et al., 2012)。
血管支配については、大腎杯は腎動脈(renal artery)の分枝である腎盂枝(pelvi-ureteric branches)から血液供給を受けており、静脈還流は対応する静脈を経て腎静脈(renal vein)へ注ぎます(Standring, 2021)。神経支配は腎神経叢(renal plexus)から交感神経線維と副交感神経線維の両方を受けており、蠕動運動の調節に関与しています(Drake et al., 2020)。
胎生期において、大腎杯は尿管芽(ureteric bud)の分枝から形成されます(Sadler, 2019)。尿管芽は後腎間葉(metanephric mesenchyme)と相互作用しながら、妊娠6〜8週頃に繰り返し分枝を行い、最終的に腎杯系を形成します(Moore et al., 2020)。大腎杯の形成不全や異常分枝は先天性水腎症(congenital hydronephrosis)などの発達異常の原因となることがあります(Tanagho and McAninch, 2016)。
臨床的には、大腎杯は複数の疾患において重要な役割を果たします。腎結石(renal calculi)はしばしば腎杯に停滞することがあり、特に下極の大腎杯は解剖学的に尿の排出角度が不利であるため、尿の停滞が起こりやすく結石形成のリスクが高まります(Matlaga et al., 2012; Pearle et al., 2020)。下極結石は体外衝撃波結石破砕術(ESWL)による治療成績が他の部位に比べて劣ることが報告されています(Sampaio and Aragao, 1992)。
画像診断において、大腎杯は重要な評価対象となります。造影剤を用いた排泄性尿路造影(intravenous pyelography, IVP)や逆行性腎盂造影(retrograde pyelography)では、大腎杯の拡張(caliectasis)や変形が腎盂腎杯系の閉塞性疾患や腫瘍性病変の診断に重要な所見となります(Tublin et al., 2017)。超音波検査やCT検査においても、大腎杯の拡張は水腎症(hydronephrosis)の初期徴候として重要です(Dyer et al., 2002)。
炎症性疾患では、急性腎盂腎炎(acute pyelonephritis)が進行すると大腎杯の炎症や拡張(caliectasis)を引き起こすことがあります(Tanagho and McAninch, 2016; Wein et al., 2016)。慢性的な閉塞や感染により、大腎杯は著明に拡張し、腎実質の萎縮を伴う水腎症へと進行する可能性があります(Kim et al., 2015)。
腫瘍性病変においては、移行上皮癌(urothelial carcinoma)が大腎杯から発生することがあり、早期診断が予後改善に重要です(Rouprêt et al., 2021)。尿細胞診や内視鏡検査による直接観察が診断に用いられます(Hall et al., 2015)。