

腎髄質は、腎臓の内部に位置する錐体状の構造であり、腎錐体(renal pyramids)を形成しています(Kriz and Kaissling, 2013)。各腎臓には通常8〜18個の腎錐体が存在し、その先端は腎乳頭(renal papilla)として腎盂に突出しています(Madsen et al., 2008)。腎髄質は肉眼的に明確に2つの主要な層に区別され、それぞれ異なる組織学的特徴と生理学的機能を有しています(Pannabecker, 2012)。
より皮質に近い部分は**髄質外帯(outer zone または outer medulla)**と呼ばれ、豊富な直血管(vasa recta)を含むため赤色調を呈しています(Kriz and Kaissling, 2013)。この外帯はさらに2つの亜区分に細分化されます。
**外側縞(outer stripe):**近位尿細管の直部(pars recta)の太い下行脚、遠位尿細管の直部の太い上行脚、集合管、および豊富な血管網から構成されています(Pannabecker, 2012)。この領域では活発な能動輸送が行われ、高い代謝活性を示します(Heyman et al., 2010)。
**内側縞(inner stripe):**ヘンレループの細い下行脚が出現し始める領域で、太い上行脚、集合管、直血管から構成されています(Pannabecker, 2012)。近位尿細管の直部はこの領域で終結します(Kriz and Kaissling, 2013)。
より内側に位置する**髄質内帯(inner zone または inner medulla)**は、主に集合管とヘンレループの細い部分(細い下行脚と細い上行脚)で構成され、血管成分が外帯と比較して著しく少ないため灰白色を呈します(Madsen et al., 2008)。この領域では、対向流増幅系(countercurrent multiplication system)により高浸透圧勾配が形成され、尿の最終濃縮に重要な役割を果たしています(Layton et al., 2009; Sands and Layton, 2014)。髄質内帯の最深部では浸透圧が1200 mOsm/kg以上に達することがあり、これは血漿浸透圧(約290 mOsm/kg)の4倍以上に相当します(Fenton and Knepper, 2007)。
腎髄質の血管系は、皮質から下行する直血管束(vascular bundles)によって構成されます(Pallone et al., 2003)。これらの直血管は下行脚(descending vasa recta)と上行脚(ascending vasa recta)から成り、対向流交換系(countercurrent exchange system)を形成することで、髄質の高浸透圧勾配を維持しながら組織への酸素と栄養供給を可能にしています(Bankir and Yang, 2012)。しかし、この特殊な血管構築により、髄質組織は相対的に低酸素状態にあり、虚血性障害に対して脆弱であるという特徴があります(Heyman et al., 2010)。
腎髄質の最も重要な機能は、対向流増幅系による尿濃縮機構です(Sands and Layton, 2014)。ヘンレループの太い上行脚では、Na-K-2Cl共輸送体(NKCC2)によってNaCl が能動的に再吸収され、間質の浸透圧を上昇させます(Castrop and Schießl, 2014)。この過程で上行脚の管腔内液は希釈され、一方で間質の高浸透圧により、水透過性の高い細い下行脚および集合管(バソプレシン存在下)から水が受動的に再吸収されます(Fenton and Knepper, 2007)。
髄質内帯では、尿素が尿濃縮機構において重要な役割を果たしています(Sands and Layton, 2014)。集合管内髄管では尿素トランスポーターUT-A1およびUT-A3が発現しており、バソプレシンの調節下で尿素の透過性が制御されています(Fenton and Knepper, 2007)。集合管から間質へ移行した尿素は、ヘンレループの細い下行脚から管腔内へ再び取り込まれ、リサイクルされることで髄質の浸透圧勾配形成に寄与しています(Sands, 2003)。
腎髄質は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質の再吸収と分泌を精密に調節することで、体液の電解質バランス維持に貢献しています(Castrop and Schießl, 2014)。特にヘンレループの太い上行脚における電解質輸送は、全身の電解質恒常性維持において中心的役割を果たしています(Palmer and Schnermann, 2015)。