腎臓 Ren (Kidney)
腎臓は、尿を生成し排泄する泌尿器系の主要な臓器であり、体内の恒常性維持に不可欠な役割を担っています。解剖学的特徴と臨床的意義について以下に詳述します(Drake et al., 2020; Hall, 2021):
解剖学的特徴
- 形状と大きさ:ソラマメ(豆)状の臓器で、成人では長さ約10-12cm、幅約5-7cm、厚さ約2.5-3cm、重量は120-170gです(Standring, 2021)。腎門は内側縁の中央にある凹みで、血管や尿管が出入りする部位です
- 位置と関係:後腹膜腔に位置し、脊柱の両側に配置されています。左腎は第11胸椎から第2腰椎、右腎は左腎より約1.5cm低く位置します(Moore et al., 2018)。右腎は肝臓により下方に圧迫されています。前面では、右腎は肝臓、十二指腸、結腸と、左腎は胃、膵臓、脾臓、結腸と接しています
- 血管支配:腎動脈は腹部大動脈から直接分岐し、腎門から入り区域動脈、葉間動脈、弓状動脈、小葉間動脈へと分枝します(Netter, 2019)。腎静脈は対応する動脈に並行して走行し、下大静脈に注ぎます。腎臓は体重の0.5%にすぎませんが、心拍出量の約20-25%を受け取っています
- 微細構造:
- 腎実質は外側の皮質と内側の髄質に分かれます(Ross and Pawlina, 2022)
- 髄質は8-18個(平均10-12個)の錐体状の腎錐体から構成され、その尖端(乳頭)は腎杯に向かっています
- ネフロンは腎臓の機能単位で、各腎に約100万個存在します。一つのネフロンは糸球体、近位尿細管、ヘンレループ、遠位尿細管、集合管から構成されています(Koeppen and Stanton, 2019)
- 被膜と支持組織:腎臓は3層の被膜に覆われています
- 腎被膜(線維性被膜):腎実質を直接覆う薄い線維性の層
- 腎周囲脂肪組織:腎臓を保護し、位置を安定させる脂肪層
- 腎筋膜(Gerota筋膜):最外層の結合組織膜
- 排泄路:尿は腎杯から腎盂へ流れ、尿管(長さ約25-30cm)を通って膀胱へと運ばれます(Drake et al., 2020)
臨床的意義
- 機能:
- 体液量と電解質バランスの調節(Hall, 2021)
- 酸塩基平衡の維持(Koeppen and Stanton, 2019)
- 老廃物(尿素、クレアチニンなど)の排泄
- 血圧調節(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)
- 赤血球産生刺激(エリスロポエチン分泌)
- ビタミンDの活性化
- 臨床評価:
- 腎機能は血清クレアチニン、尿素窒素(BUN)、糸球体濾過率(GFR)で評価します(Jameson et al., 2018)
- 画像診断には超音波、CT、MRI、排泄性尿路造影(IVP)などが用いられます(Levine et al., 2018)
- 主な病態:
- 先天性異常:馬蹄腎、腎無形成、嚢胞腎など(Kumar et al., 2018)
- 腎結石:シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、尿酸、シスチンなど
- 腎炎:糸球体腎炎、間質性腎炎
- 腎不全:急性腎障害(AKI)、慢性腎臓病(CKD)
- 腫瘍:腎細胞癌、Wilms腫瘍(小児)(Jameson et al., 2018)
腎臓は静かな臓器と呼ばれ、かなりの機能低下が生じるまで症状が現れないことが多いため、定期的な健康診断による早期発見が重要です(Kumar et al., 2018)。また、移植可能な臓器であり、末期腎不全患者の治療選択肢の一つとなっています。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th Edition - 泌尿器系の詳細な解剖学的記述に優れた教科書
- Hall, J.E. (2021) Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology, 14th Edition - 腎機能と体液調節の生理学的側面の理解に必須の文献
- Jameson, J.L., Fauci, A.S., Kasper, D.L., Hauser, S.L., Longo, D.L. and Loscalzo, J. (2018) Harrison's Principles of Internal Medicine, 20th Edition - 腎疾患の臨床的側面に関する包括的な情報源
- Koeppen, B.M. and Stanton, B.A. (2019) Renal Physiology, 6th Edition - ネフロンの構造と機能に焦点を当てた専門書
- Kumar, V., Abbas, A.K. and Aster, J.C. (2018) Robbins Basic Pathology, 10th Edition - 腎疾患の病理学的側面に関する重要な参考文献