胸腔は、胸郭によって囲まれた円錐形の空間を指します。この空間は横隔膜で胸腔と腹腔が分かれています。胸腔内には左右の胸膜腔と縦隔があります。胸膜腔は壁側胸膜と臓側胸膜によって囲まれ、壁側胸膜は胸壁の内部を覆い、臓側胸膜は肺を覆っています。一方、縦隔内には心膜腔があり、心臓を包んでいます。
胸腔と胸膜腔は異なる概念で、注意が必要です。胸腔は胸郭内の空間で、下部は横隔膜に閉じられ、上部は頚部に開いています。一方、胸膜腔は壁側胸膜と肺胸膜によって囲まれた閉鎖空間で、その内部には少量の漿液が存在します。肺は胸腔内に位置していますが、胸膜腔の外側にあります。さらに、胸腔内には心膜腔という閉鎖された袋が存在し、その中には心臓や大血管などの胸部内臓が詰まっています。
J0758 (右の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:右側からの図)
J0759 (左の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:左側からの図)
日本人のからだ(村上 弦 2000)によると
右胸心には、孤立性右胸心、鏡像型右胸心、無脾症候群・多脾症候群を伴う右胸心の3型が存在します(表46、高尾、1989)。孤立性右胸心では、心房、肺・気管支、腹部内臓の位置は正常で、左大動脈弓・右大静脈を有しますが、修正大血管転位症を伴い、右房-左室-肺動脈、左房-右室-大動脈が連続します。しかし、孤立性右胸心の40%では、修正大血管転位を伴わないとされています。鏡像型右胸心は全内臓逆位の部分形態で、20%で修正大血管転位を伴います。無脾症または多脾症を伴う右胸心では、70%で右室が左側に位置します。心房および肺・気管支の形態は様々であり、大動脈弓と大静脈との関係も一定しません。多脾症では、下大静脈が欠損し、発達した奇静脈を(左)大動脈の後方に認めることがしばしばあります。
表46 右胸心剖検82例中の分類
孤立性右胸心¹⁾ | 鏡像型右胸心²⁾ | 無胖症・多脾症を伴う右胸心³⁾ | |
---|---|---|---|
(35%) | (30%) | (12%)(22%) | |
大動脈弓 | 正常(左) | 右 | 右または左 |
上下大静脈 | 正常(右) | 左 | 右または左 |
胃,肝臓 | 正常 | 正常 | 正中線上 |
心奇形 | 半数以上で大血管転位を合併 | 70%で右室が左側 | |
100%近くで心房の奇形 |
¹⁾: 心臓だけが鏡像のため,結果的に(内景上の)左室に肺動脈がつく.つまり,かならず大血管逆位を伴 う.