



肺の斜裂は左右両肺に存在する主要な解剖学的構造で、後上方から前下方に向かって斜めに走行します(Ellis, 2019)。解剖学的位置として、肺の後面では肺尖から約6cm下方(第3胸椎の棘突起レベル)に始まり、前下方へ斜走して肺の下縁内側部に終わります。Standring(2020)によれば、胸部CT矢状断では、斜裂は後上方から前下方へのS字状の線として確認できます。
斜裂を構成する胸膜は二層の臓側胸膜が折り返した構造であり、その間には疎性結合組織と血管、リンパ管が介在します(Netter, 2019)。この解剖学的特徴により、斜裂は肺実質内の炎症波及や腫瘍浸潤に対する一定のバリア機能を持ちます。
左肺では上葉と下葉を分ける唯一の裂隙であり、右肺では下葉と中・上葉を分ける重要な境界となります(Moore et al., 2022)。左肺の斜裂は右肺のものより垂直に近い走行を示し、これは左肺が心臓の存在により容積が制限されることに起因します(Snell, 2019)。
機能的には、斜裂の存在により各肺葉が独立して膨張・収縮することが可能となり、呼吸運動の効率性が高まります(West and Luks, 2021)。また、肺葉間の独立性は、一肺葉に限局した病変が他の肺葉へ波及することを遅延させる役割も果たします。
肺葉切除術などの胸部外科手術における重要な解剖学的ランドマークとなり、肺葉間の剥離操作の指標となります。Hansell et al.(2018)は、胸部画像診断において斜裂の位置異常は先天性肺形成異常を示唆することがあると報告しています。
胸腔鏡下手術(VATS)においては、斜裂の同定が手術の初期段階で重要となり、その完全性や癒合の有無が手術手技の選択に影響を与えます(Rocco et al., 2020)。斜裂の不完全性(incomplete fissure)は約20-30%の症例で認められ、この場合は葉間を横断する肺実質の存在により、葉間剥離が技術的に困難になります(Craig and Walker, 2018)。
外科解剖学的には、斜裂は壁側胸膜と臓側胸膜が折り返す部位であり、肺間質が連続しているため、斜裂に沿って肺葉を分離する際は鋭的切離が必要です(Shields, 2021)。臨床画像上では、斜裂は脊柱側方で第4肋骨から始まり、前下方へ下降し、鎖骨中線上で第6肋骨レベルに達します。
斜裂内には葉間動脈および静脈が走行し、特にA2動脈(上葉後区域枝)やA6動脈(下葉上区域枝)は斜裂に近接して走行するため、手術操作時には血管損傷に注意が必要です(Yamashita, 2020)。
Kanne(2019)によると、炎症性肺疾患では斜裂に沿って炎症が波及することがあり、胸部X線写真で斜裂の肥厚として観察されることがあります。
高解像度CT(HRCT)では、正常な斜裂は1-2mm以下の薄い線状構造として描出されます(Webb et al., 2022)。斜裂の肥厚(3mm以上)は、間質性肺炎、石綿肺、胸膜炎などの病的状態を示唆します。また、斜裂の偏位は肺容積の変化(無気肺や肺気腫)の指標となります(Gurney, 2019)。
胎生期において、斜裂は胎生5-6週頃に肺芽の不均等な成長により形成され始めます(Sadler, 2019)。この過程で臓側胸膜が肺実質内に陥入することで裂隙が形成されますが、約30%の症例では不完全な裂隙形成となります(Larsen, 2020)。このような発生学的変異は、臨床的には副裂や不完全裂として観察されます。