縦隔面(肺の)Facies mediastinalis

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J0749 (右肺:内側からの図)

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J0750 (左肺:内側からの図)

解剖学的特徴

肺の縦隔面は、胸腔内で左右の肺の間に位置する縦隔に面する凹面であり、縦隔内の重要構造物と広範な接触面を形成しています(Standring, 2021; Netter, 2019)。この面は単なる平面ではなく、心臓、大血管、食道、気管、気管支、神経、リンパ節などの印象によって複雑な起伏を呈します(Drake et al., 2020)。

右肺の縦隔面では、心臓による圧痕(cardiac impression)が比較的浅く認められ、これは右心房および右心室の一部との接触によるものです(Moore et al., 2018)。上方には上大静脈の圧痕(sulcus for superior vena cava)、その後方には奇静脈の圧痕(groove for azygos vein)が観察されます(Snell, 2019)。さらに後方には食道の圧痕(esophageal impression)が存在し、右主気管支が肺門を通過する部位の上方には気管の圧痕も認められます(Gray and Lewis, 2020)。

左肺の縦隔面は右肺よりも特徴的な構造を示します。最も顕著なのは心臓による大きく深い圧痕(cardiac impression)であり、これは左心室の大部分と左心房との接触によって形成されます(Standring, 2021)。この心臓圧痕の前縁には心切痕(cardiac notch)が存在し、前胸壁において心臓が胸壁に最も近接する部位を形成します(Tubbs et al., 2016)。上方には大動脈弓の圧痕(aortic impression)が明瞭であり、その下方には下行大動脈の圧痕(groove for descending aorta)が縦走します(Drake et al., 2020)。また、左鎖骨下動脈の圧痕も認められることがあります(Netter, 2019)。

肺門(hilum of lung)は縦隔面のほぼ中央に位置し、気管支、肺動脈、肺静脈、気管支動脈、神経叢、リンパ管およびリンパ節が集合する部位です(Standring, 2021)。これらの構造物は肺根(pulmonary root)を形成し、臓側胸膜と壁側胸膜の移行部である肺靱帯(pulmonary ligament)によって下方に延長されます(Moore et al., 2018)。肺門における構造物の配置は臨床的に重要であり、一般的に上方から肺動脈、中央に気管支、下方に肺静脈という配列を示しますが、左右で若干の差異があります(Drake et al., 2020)。

臨床的意義

縦隔面の臨床的重要性は、画像診断、腫瘍学、外科学の各分野において極めて高いものです。CT・MRI検査では、縦隔面の構造物や肺門部の詳細な評価が可能であり、異常所見の検出に不可欠です(Webb et al., 2015)。縦隔リンパ節の腫大は、肺癌、リンパ腫、結核、サルコイドーシスなどの多様な疾患で認められ、鑑別診断における重要な所見となります(Hansell et al., 2019)。

肺癌のステージング(病期診断)において、縦隔リンパ節転移の有無は予後および治療方針の決定に決定的な影響を与えます(Detterbeck et al., 2017)。TNM分類では、縦隔リンパ節転移はN2またはN3病変として分類され、手術適応や化学療法・放射線療法の選択に直結します(Goldstraw et al., 2016)。PET-CT検査やEBUS(超音波気管支鏡)を用いた縦隔リンパ節生検は、術前診断の精度向上に貢献しています(Silvestri et al., 2013)。

胸部外科手術、特に肺切除術(肺葉切除術、肺全摘術)においては、縦隔面の解剖学的理解が術中の安全性確保と術後合併症予防に不可欠です(Shields et al., 2017)。肺門部での血管・気管支の処理には精密な解剖学的知識が要求され、誤った剥離や結紮は大量出血や気管支瘻などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります(Ginsberg and Rubinstein, 2013)。また、縦隔腫瘍摘出術においても、周囲臓器(心臓、大血管、食道、反回神経など)との位置関係を正確に把握することが手術成功の鍵となります(Kaiser and Bavaria, 2017)。

さらに、縦隔面は胸腔鏡下手術(VATS: Video-Assisted Thoracic Surgery)やロボット支援手術(RATS: Robot-Assisted Thoracic Surgery)においても重要な解剖学的ランドマークとなります(Cerfolio and Bryant, 2014)。これらの低侵襲手術では、縦隔面の構造物を内視鏡的に同定し、安全な手術操作を行うための解剖学的知識がより一層重要となります(Swanson et al., 2019)。

参考文献