



肺尖(apex pulmonis)は、肺の最上端部であり、胸腔の最上部に位置する円錐状の構造である。肺尖は胸郭上口(thoracic inlet)を通過し、鎖骨の上方約2.5~3cm、第一肋骨の上方約1~2cmまで伸展している(Standring, 2021)。この領域は胸膜頂(cupula pleurae)によって覆われており、胸膜腔の最も高い部分を形成する(Moore et al., 2022)。
肺尖の表面は、鎖骨下動脈が通過することによって形成される鎖骨下動脈溝(sulcus for subclavian artery)を示すことがある。右肺尖は通常、左肺尖よりもわずかに高く位置し、これは大動脈弓の存在による左側の空間的制約によるものである(Gray and Lewis, 2020)。肺尖部の組織学的構造は他の肺領域と同様であるが、相対的な換気量は重力の影響により安静時には減少している(West, 2021)。
肺尖部は、複数の重要な神経血管構造と密接な解剖学的関係を有している。前方では、鎖骨下動脈および鎖骨下静脈と接し、後方では、星状神経節(stellate ganglion)および下頸神経節を含む頸部交感神経幹(cervical sympathetic trunk)に近接している(Standring, 2021)。また、腕神経叢(brachial plexus)、特にその下幹(lower trunk)が肺尖の後外側を走行しており、肺尖部の病変によって影響を受ける可能性がある(Drake et al., 2020)。
肺尖部は、第一肋骨、鎖骨、胸鎖乳突筋(sternocleidomastoid muscle)、前斜角筋(scalenus anterior muscle)、中斜角筋(scalenus medius muscle)などの筋骨格構造によって囲まれている(Moore et al., 2022)。
肺尖部の血液供給は、肺動脈の上葉枝および気管支動脈によって行われ、静脈還流は肺静脈系を通じて行われる(Netter, 2023)。この領域は毛細血管が豊富に分布しており、酸素交換における重要な役割を果たしている。しかし、Kumar and Abbas(2023)によれば、肺尖部は相対的に酸素分圧が高く、血流が少ないという特性から、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などの好気性病原体の増殖に適した環境を提供するため、肺結核の好発部位として知られている。
肺尖部に発生する腫瘍は、Pancoast腫瘍(Pancoast tumor)または上肺溝腫瘍(superior sulcus tumor)として知られ、Pancoast(1932)によって初めて詳細に記載された。この腫瘍は、通常、非小細胞肺癌(non-small cell lung carcinoma)、特に扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)または腺癌(adenocarcinoma)であることが多い(Travis et al., 2015)。
Pancoast腫瘍は、周囲の神経血管構造への浸潤により特徴的な症候群を引き起こす。腕神経叢の下幹(C8、T1神経根)への浸潤は、肩、腕、手の内側に沿った激しい痛みを引き起こし、手の内在筋の萎縮および筋力低下をもたらす(Davidson et al., 2019)。星状神経節または頸部交感神経幹への浸潤は、Horner症候群(Horner syndrome)を引き起こし、同側の縮瞳(miosis)、眼瞼下垂(ptosis)、無汗症(anhidrosis)を特徴とする(Rubin et al., 2021)。
肋骨、椎体、または鎖骨下血管への浸潤も生じる可能性があり、これらは画像診断、特に胸部CT(computed tomography)およびMRI(magnetic resonance imaging)によって評価される(Ginsberg et al., 2020)。治療は、外科的切除、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的アプローチが推奨されている(Davidson et al., 2019)。
肺尖部は、続発性肺結核(secondary pulmonary tuberculosis)の最も一般的な発生部位である。これは、肺尖部の高い酸素分圧と相対的に低い血流が、好気性である結核菌の増殖に適した環境を提供するためである(Kumar and Abbas, 2023)。胸部X線写真では、肺尖部に空洞性病変(cavitary lesions)、結節、または浸潤影が認められることが多い(Raviglione and Sulis, 2023)。
肺尖部は、自然気胸(spontaneous pneumothorax)の発生において重要な役割を果たす。特に、肺尖部に存在する肺胞嚢胞(blebs)または気腫性嚢胞(bullae)の破裂が、若年の痩せ型男性における原発性自然気胸の主な原因である(Sahn and Heffner, 2000)。また、外傷性気胸(traumatic pneumothorax)においても、肺尖部の損傷が関与することがある(Light, 2022)。
診断は、胸部X線写真または胸部CTによって行われ、治療は気胸の程度に応じて、経過観察、胸腔ドレナージ(chest tube drainage)、または外科的介入(胸腔鏡下手術など)が選択される(MacDuff et al., 2010)。