肺尖 Apex pulmonis

解剖学的位置と特徴

肺尖は、胸腔の最上部に位置する肺の最も高い部分であり、一部は胸郭上口(thoracic inlet)を超えて伸びています(Gray and Lewis, 2020)。解剖学的には第一肋骨の内側湾曲の上方に位置し、鎖骨下動脈の溝(subclavian groove)が見られることがあります。Moore et al.(2022)によれば、右肺尖は通常、左肺尖よりもやや高く位置しています。

周囲の解剖学的構造との関係

肺尖部は星状神経節や頸部交感神経幹に近接しており、また鎖骨下動静脈や腕神経叢とも解剖学的に関連しています(Standring, 2021)。この領域には毛細血管が豊富に存在し、Kumar and Abbas(2023)によると、肺結核などの感染症が好発する部位として知られています(肺尖部結核)。

臨床的意義

臨床的意義としては、肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)が重要であり、Pancoast(1932)が初めて報告したこの腫瘍は、周囲の神経構造を侵害すると、腕や手の痛みやしびれ、Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面発汗低下)などの症状を引き起こすことがあります(Davidson et al., 2019)。また、Sahn and Heffner(2000)の研究によれば、外傷による肺尖部の損傷は気胸の原因となることがあります。胸部X線写真や胸部CTでの評価が重要な解剖学的領域です。

参考文献

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J0747 (右肺:前外側方からの図)

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J0748 (左肺:前外側方からの図)

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J0749 (右肺:内側からの図)

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J0750 (左肺:内側からの図)