

J0762 (甲状腺、喉頭と気管に対する位置:前方からの図)
気管の輪状靱帯は、C字型の硝子軟骨(軟骨輪、tracheal cartilages)とそれらを連結する線維弾性組織(fibro-elastic tissue)からなる構造で、気管の前壁と側壁を補強しています(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。成人では通常16〜20個の軟骨輪が存在し、各軟骨輪は約4〜5mmの高さで、互いに1.5〜3mmの間隔で配列しています(Minnich and Mathisen, 2007)。
各軟骨輪は後方で開放したC字型を呈し、この開口部は気管膜様部(pars membranacea、membranous wall)を形成しています(Standring, 2021)。膜様部は平滑筋束(気管筋、musculus trachealis)と弾性結合組織で構成され、食道との間に位置します(Ellis, 2012)。隣接する軟骨輪同士は輪状靱帯(ligamenta anularia)によって連結されており、この靱帯は主に弾性線維と膠原線維から構成されています(Gray et al., 2020)。
気管壁は内側から粘膜層、粘膜下層、軟骨・筋層、外膜の4層構造を有しています(Ross and Pawlina, 2020)。粘膜は多列線毛円柱上皮で覆われ、粘膜下層には漿液腺と混合腺が豊富に分布し、気道の加湿と浄化機能を担っています(Mescher, 2021)。
輪状靱帯と軟骨輪の構造は、気管に以下の重要な機能的特性を付与しています。第一に、C字型軟骨は気道の虚脱を防ぎ、吸気時の陰圧に対して気道の開存性を維持します(Grillo, 2018)。第二に、軟骨輪間の弾性線維を含む輪状靱帯は、頸部の運動(伸展・屈曲・回旋)や嚥下運動時の気管の伸展を可能にします(Standring, 2021)。
後方の膜様部は、嚥下時に食塊が食道を通過する際に前方へ膨隆することを許容し、また咳嗽時には気管筋の収縮により内腔を狭小化させることで、呼気速度を増加させて効率的な喀痰排出を促します(Widdicombe, 2006)。さらに、輪状靱帯の弾性特性は、呼吸サイクル中の気管の長さの変化(最大約2cm)に対応しています(Breatnach et al., 1984)。
輪状靱帯の解剖学的知識は、多くの臨床場面で重要です。気管切開術では、通常第2〜4軟骨輪のレベルで切開が行われます(Grillo, 2018; Durbin, 2010)。第1軟骨輪を損傷すると輪状軟骨との関節に影響を及ぼし、声帯麻痺のリスクがあるため避けるべきです(Greenberg, 2019)。
気管軟化症(tracheomalacia)は、軟骨輪の構造的脆弱性により気道が虚脱する病態で、先天性と後天性に分類されます(Carden et al., 2005)。後天性の原因には、長期挿管、慢性炎症、再発性多発軟骨炎などがあります(Murgu and Colt, 2013)。気管支鏡検査では、呼気時に気管内腔の50%以上の狭窄を認める場合に気管軟化症と診断されます(Boiselle et al., 2009)。
気管狭窄症は、挿管による虚血性損傷、外傷、感染、腫瘍などにより軟骨輪と輪状靱帯が瘢痕化することで生じます(Grillo, 2018)。治療には気管拡張術や気管切除術が必要となることがあります(Mathisen and Wain, 2016)。また、先天性気管狭窄症では、完全な輪状軟骨(complete tracheal rings)を認め、C字型構造が欠如していることが特徴的です(Rutter et al., 2003)。
画像診断では、CTやMRIにより軟骨輪の石灰化、肥厚、欠損などを評価できます(Boiselle and Ernst, 2010)。超音波検査は小児の気管評価や気管切開の際の解剖学的ランドマークの同定に有用です(Kristensen et al., 2016)。