
声門は、喉頭の中央に位置し、声を生成する重要な解剖学的構造です。発声機能の中核となるこの部位は、一対の声帯ヒダ(真声帯、vocal folds)とその間の声門裂(rima glottidis)によって構成されています(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。
声帯ヒダは、声帯靭帯(vocal ligament)と声帯筋(vocalis muscle、甲状披裂筋の内側部)から構成される複合的な構造物です(Moore et al., 2018)。声帯靭帯は弾性円錐(conus elasticus)の上縁の肥厚部として形成され、甲状軟骨の前内角から後方の披裂軟骨の声帯突起まで伸びています(Netter, 2019; Standring, 2021)。
声帯ヒダを覆う粘膜は、重層扁平上皮からなり、極めて薄く基部と強く結合しているため、発声時の振動に適した構造となっています(Hirano, 1974; Gray et al., 2000)。声帯ヒダの遊離縁である声帯は、呼吸や発声時に振動し、その長さは成人男性で約17-23mm、成人女性で約12-17mmです(Moore et al., 2018; Titze, 1994)。この性差が基本周波数の違いをもたらし、男性の声が低く、女性の声が高い理由となっています(Zemlin, 1998)。
声門裂は、左右の声帯ヒダの間に形成される三角形または菱形の間隙であり、呼吸と発声に応じて形状が変化します(Drake et al., 2020)。通常、成人では安静呼吸時に5-8mm開いており、深吸気時には最大15mmまで拡大します(Netter, 2019; Standring, 2021)。声門裂は機能的に二つの部分に分けられます。前方3/5は声帯間にあり膜間部(intermembranous part)、後方2/5は披裂軟骨間にあり軟骨間部(intercartilaginous part)と呼ばれます(Moore et al., 2018; Drake et al., 2020)。
声門の神経支配は、上喉頭神経内枝(sensory)および反回神経(motor)によって行われます(Standring, 2021)。反回神経は、声帯筋を含むすべての内喉頭筋を支配し、声帯の緊張と位置を制御します(Moore et al., 2018; Lore and Medina, 2005)。
臨床的に声門は非常に重要な部位です。声門癌(glottic carcinoma)は喉頭癌の中で最も一般的であり、全喉頭癌の50-60%を占めます(Kumar et al., 2021; Marur and Forastiere, 2016)。嗄声(hoarseness)が初期症状として現れることが多く、早期発見・早期治療が可能です(National Comprehensive Cancer Network, 2022)。声門の血管およびリンパ管分布が限られているため、声門癌は比較的転移が遅く、予後は良好です(Kumar et al., 2021; Mendenhall et al., 2004)。
声門浮腫(glottic edema)は、アレルギー反応、感染、外傷などにより発生し、急速な気道閉塞を引き起こす可能性があります(Rosen and Wolfe, 2022; Walls and Murphy, 2018)。声門痙攣(laryngospasm)は、声帯の不随意的な収縮によって生じ、特に麻酔導入時や浅麻酔時に発生しやすく、緊急の気道管理が必要になることがあります(Hampson-Evans et al., 2008; Gavel and Walker, 2014)。
声帯ポリープ(vocal fold polyps)や声帯結節(vocal nodules)は、過度の発声、誤った発声技術、喫煙などにより発生し、慢性的な音声障害の原因となります(Hirano and Bless, 1993; Verdolini and Ramig, 2001)。声帯ポリープは通常片側性で血管成分が多く、声帯結節は両側性で線維成分が多いという特徴があります(Rosen and Murry, 2000; Johns, 2003)。
声帯麻痺(vocal fold paralysis)は、反回神経損傷により起こります(Rubin et al., 2006; Sulica, 2008)。甲状腺手術、食道手術、胸部手術時の医原性損傷が最も一般的な原因です(Chandrasekhar et al., 2013)。片側性麻痺の場合は嗄声、気息性嗄声、誤嚥を、両側性麻痺の場合は重度の呼吸困難(stridor)を引き起こすことがあり、緊急の気管切開が必要になる場合があります(Woodson, 2008; Dankbaar et al., 2014)。
内視鏡検査(特に喉頭ファイバースコピー)や喉頭鏡検査は、声門の臨床評価において重要な診断ツールとなっています(Zeitels et al., 2007; Woo, 2014)。特に、ストロボスコピー(laryngeal videostroboscopy)は、声帯の振動パターンを詳細に観察でき、微細な病変の検出に有用です(Hirano and Bless, 1993; Patel et al., 2008)。