甲状披裂筋 Musculus thyroarytenoideus

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J0739 (内側の喉頭筋:右側からの図)

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J0741 (声帯の高さでの喉頭の断面、上方からの図)

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J0745 (喉頭の前頭断、前半部:後方からの図)

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J0746 (喉頭の前部を通る前向きの切断図)

解剖学的構造

甲状披裂筋(musculus thyroarytenoideus)は喉頭内筋の一つであり、甲状軟骨角の内面と甲状軟骨板下部内面から起始し、後外側方向へ走行して披裂軟骨の筋突起および前外側面に停止する(Standring, 2021; Gray and Lewis, 2020)。本筋は外側部(外側甲状披裂筋)と内側部(声帯筋)の二部に区分される。声帯筋は声帯ヒダ内を走行し、声帯靱帯と密接な関連を保ちながら披裂軟骨の声帯突起に付着する(Zemlin, 2010)。組織学的には横紋筋線維から構成され、筋線維の配列は複雑な構造を呈し、声帯の微細な調節機能に適応している。

神経支配と血液供給

神経支配は迷走神経の枝である反回神経(下喉頭神経)により行われる(Sataloff, 2017)。左右で解剖学的経路が異なり、左反回神経は大動脈弓を、右反回神経は鎖骨下動脈をそれぞれ回って上行する。血液供給は主として喉頭動脈(上喉頭動脈および下喉頭動脈)から得られる(Standring, 2021)。

機能と作用

甲状披裂筋の主要な機能は以下の通りである:

  1. 声帯の調節:披裂軟骨を前方へ牽引することにより声帯を短縮させ、声帯ヒダの緊張を減少させる。この作用は輪状甲状筋との拮抗作用として機能する(Hirano and Bless, 1993)。
  2. 声門閉鎖:披裂軟骨の声帯突起を内側方向へ回転させることで声門閉鎖を達成する(Van den Berg, 2008)。
  3. 声帯の微細調節:特に声帯筋部分は音声の高さおよび質の調節において重要な役割を担い、発声時の声帯振動パターンを制御する(Titze, 2000)。
  4. 嚥下時の保護機能:声門閉鎖により誤嚥を防止する(Logemann, 2010)。

臨床的意義

甲状披裂筋に関連する主要な臨床的事項は以下の通りである:

  1. 反回神経麻痺:反回神経損傷により甲状披裂筋を含む喉頭筋が麻痺した場合、声帯が正中位または副正中位で固定され、嗄声や呼吸困難を引き起こす(Rosen and Simpson, 2008)。
  2. 声帯ポリープ・結節:過度の発声負荷により声帯筋の過緊張が生じ、声帯粘膜の病変形成につながる(Ramig and Verdolini, 2015)。
  3. スピーチセラピー:発声障害の治療において、甲状披裂筋の適切な使用法の訓練が重要である(Stemple et al., 2019)。
  4. 声帯内注射療法:声帯麻痺の治療法として、甲状披裂筋内へのコラーゲンまたはヒアルロン酸注入により声帯内転を補助する治療が実施される(Rosen et al., 2016)。
  5. 音声外科:声帯病変切除術や声帯形成術の実施において、甲状披裂筋の解剖学的理解が必須である(Zeitels and Healy, 2013)。

発生学