


起始と停止
後輪状披裂筋は、喉頭内筋の一つで、輪状軟骨板の後面にある浅い陥凹部から起始し、上外側方向に扇状に広がりながら走行して、披裂軟骨の筋突起の後外側面に停止します(Sataloff, 2006; Gray, 2020)。筋線維の走行方向は上外側かつ前方に向かい、筋の長さは約1.5〜2.0cmです(Hirano, 1981)。
筋の形態と構造
筋の厚さは他の内喉頭筋と比較して厚く、断面積が最大の喉頭筋として知られています(Zemlin, 1998)。組織学的には、主に速筋線維(Type II)で構成されており、急速な声門開大動作に適した特性を持ちます(Hoh, 2005)。筋束は3〜4層に分かれて配列し、それぞれが微妙に異なる角度で披裂軟骨に付着することで、多様な声門開大動作を可能にしています(Sanders et al., 1993)。
神経血管支配
神経支配は下喉頭神経(反回神経)の前枝によって行われ、その支配枝は筋の下部外側から入ります(Sanders et al., 1993; Rubin et al., 2006)。血液供給は主に下甲状腺動脈の枝である下喉頭動脈から受けています(Murakami et al., 1985)。
基本的機能
臨床的には簡略化して「後筋」と呼ばれ、反回神経麻痺の評価において重要な指標となります(Dedo, 1979)。機能的には唯一の声門開大筋であり、収縮すると披裂軟骨の筋突起を後外側に引き、披裂軟骨を長軸に沿って外方に回転させます(Sanders et al., 1993; Sellars et al., 2005)。この回転運動により声帯突起は外側に移動し、声帯間距離が拡大して声門が開大します(Hirano, 1981)。
呼吸における役割
呼吸時、特に吸気時には後輪状披裂筋の活動が顕著に増加し、気道抵抗を最小化するために声門を最大限に開大します(Brancatisano et al., 1984)。運動時や努力呼吸時には、その活動はさらに増強され、十分な換気を確保します(Kuna et al., 1988)。
発声における役割
発声直前には後輪状披裂筋の活動が急速に減少し、他の内喉頭筋による声門閉鎖を可能にします(Hirano et al., 1970)。この協調的な筋活動が、スムーズな発声開始を可能にしています(Ludlow, 2005)。
反回神経麻痺
反回神経麻痺が生じると後輪状披裂筋の機能が失われ、声門開大不全を引き起こします(Woodson, 2007; Misono and Merati, 2012)。片側性麻痺では、嗄声と誤嚥のリスク増加が主な症状となりますが、対側の代償機能により呼吸困難は通常軽度です(Sulica, 2008)。しかし、両側の後筋麻痺では重度の呼吸困難を生じ、気管切開が必要となる場合があります(Hillel, 2001; Maronian et al., 2003)。
診断的評価