

披裂軟骨尖(apex cartilaginis arytenoideae)は、喉頭の後部に位置する対称性の三角錐状軟骨である披裂軟骨の最上部を構成しています。披裂軟骨は底面、内側面、後外側面の3つの面と、声帯突起(processus vocalis)、筋突起(processus muscularis)の2つの突起を持ち、その頂点が披裂軟骨尖として定義されます(Standring, 2020)。
披裂軟骨尖は小角軟骨(corniculate cartilage)と関節を形成し、披裂喉頭蓋ヒダ(plica aryepiglottica)の後方支持構造として機能します。この部位は喉頭の動的な構造において重要な役割を果たし、声門の形態維持と調節に寄与しています(Standring, 2020)。
披裂軟骨尖の組織学的構成は、主にヒアリン軟骨(hyaline cartilage)からなり、後部では弾性軟骨(elastic cartilage)に移行しています(Sato and Hirano, 2018)。この組織学的移行部は、軟骨の柔軟性と強度のバランスを提供し、喉頭の動的機能を支えています。
披裂軟骨尖には披裂間筋(musculus interarytenoideus)が付着しており、この筋は横筋(pars transversa)と斜筋(pars obliqua)の2つの部分から構成されます。横筋は両側の披裂軟骨を内転させ、声門後部を閉鎖する役割を担います。斜筋は披裂軟骨尖から対側の披裂軟骨の筋突起に走行し、披裂喉頭蓋筋(musculus aryepiglotticus)に連続します(Reidenbach, 2019)。
また、声帯靭帯(ligamentum vocale)や声帯筋(musculus vocalis)との解剖学的関連性も重要です。これらの構造は披裂軟骨の声帯突起に付着し、声帯の緊張と長さの調節に関与しています(Reidenbach, 2019)。
臨床的に、披裂軟骨尖は以下の疾患や状態の評価において重要な指標となります:
声帯麻痺:反回神経麻痺では披裂軟骨の動きが制限され、嗄声(dysphonia)や誤嚥(aspiration)のリスクが高まります。片側性麻痺では、患側の披裂軟骨は傍正中位(paramedian position)に固定され、健側との非対称性が観察されます(Rubin et al., 2022)。
喉頭癌:披裂軟骨尖の浸潤や変形は、喉頭癌の進行度評価において重要な所見です。特に声門上癌(supraglottic carcinoma)では、披裂軟骨尖への浸潤がステージングに影響します(Rubin et al., 2022)。
炎症性疾患:喉頭炎などの炎症性疾患では、披裂軟骨尖周囲の浮腫や発赤が観察されます。慢性炎症では軟骨膜炎(perichondritis)を引き起こし、軟骨の変性や壊死に至ることがあります(Rubin et al., 2022)。
喉頭内視鏡検査:披裂軟骨尖の位置や動きを観察することで声帯機能の評価が可能です。動的検査では、発声時の披裂軟骨の内転運動や、呼吸時の外転運動を評価し、喉頭の神経筋機能を判定します(Koufman and Blalock, 2021)。
気管挿管と喉頭手術:挿管時には披裂軟骨尖の損傷を避けるため、喉頭鏡操作に注意が必要です。声帯手術、特に披裂軟骨内転術(arytenoid adduction)や披裂軟骨摘出術(arytenoidectomy)では、この構造への理解が不可欠です(Koufman and Blalock, 2021)。